令和3年11月11日(木)、第1回 Special Lecture and Discussion “The Road to Digital Transformation to Change Society”を開催いたしました。新しい試みの第1回目となる今回は、慶応義塾大学 総合政策学部の新保史生教授を講師にお招きし、「行政のデジタル変革を進めるために-デジタル改革関連法と課題解決の視点-」と題する講演をしていただき、その後参加者でディスカッションを行いました。
新保先生は駒澤大学大学院法学研究科博士課程を修了後、筑波大学大学院図書館情報メディア研究科准教授等を経て、2013年より、現職の慶應義塾大学総合政策学部において、憲法、情報法、ロボット法等をご専門に教鞭をとられています。中でも、AIネットワークや情報倫理等については先進的な研究で知られており、今回のご講演では、行政のデジタル変革(DX; デジタルトランスフォーメーション)を私たちの社会の問題ととらえ、法整備といった面も含め、DXにまつわる様々な課題についてお話ししていただきました。
日本では、2000年のIT基本法から20年以上にわたり、行政や教育等のさまざまな公共分野においてIT化を進めるための法整備が行われており、これは欧州等のIT化が進んでいる国にも引けを取っていないとのことです。しかしながら、日本の行政DXはあまり進んではいません。このことについて、日本ならではの問題点や、現行制度に対する国民の意見等が紹介されました。例えば、デジタル手続きにおける原則として、すべての手続きが一ヶ所で、滞りなくデジタル技術を用いてできる、というものがあるとのことですが、日本の行政手続きは、このことが徹底されていないため、現在中途半端なDXになっているそうです。ハンコの文化や、いまだに使用されているFAXによるやりとりが代表例として挙げられます。また、デジタル化で様々な行政手続きが簡便になるにもかかわらず、それを市民にまで伝えることができていないというコミュニケーションの不十分さや、さらに、マイナンバーと預金口座の紐づけに対する意見等で見られる国家による監視への危惧等も、行政手続きのDXを遅らせている要因として挙げられました。
こうした問題点が挙げられた後で、講師と参加者によるディスカッションが行われました。「DXに関する行政からのコミュニケーションの問題点はどこか、見習うべきコミュニケーションはどのようなものか」、「行政がアバターを使用するときは匿名なのか、責任の所在はどこにあるのか」、「政府クラウドはどこで準備すべきなのか」といった参加者から次々に投げかけられる質問に、新保先生は的確に答えていました。こうしたやり取りの中で、新保先生がおっしゃっていた、「自然災害の多い日本ではいざという時に貨幣が役に立つので、必ずしも完全にデジタル化することが正しい訳ではない」という逆転の発想には、デジタル化を良いものと考えていた多くの参加者が虚をつかれたようでした。今後もデジタル技術への理解を深めるため、Special Lecture and Discussion “The Road to Digital Transformation to Change Society”を継続して開催していきますので、ご期待ください。
この講演会の模様は令和3年12月2日~令和3年12月12日までmanabaにて動画配信されました。