令和4年1月28日(火)、第3回 Special Lecture and Discussion “The Road to Digital Transformation to Change Society”を開催しました。今回は、東京大学名誉教授で、放送大学客員教授である水島司氏を講師にお招きし、「時空間情報研究(H-GIS)の課題と可能性」と題する講演をしていただき、その後参加者によるディスカッションを行いました。

水島先生は、日本における南アジア史研究の第一人者として長きにわたりインド農村や東南アジアのインド人についての研究を行われ、グローバル・ヒストリーの概念を日本に持ち込まれた先生でもあります。今回のご講演では、H-GIS(Historical Geographical Infomation System/Science、時空間情報研究)を活用した研究の開拓についてお話しいただきました。

歴史研究においてある場所に関する情報を得ようとする際、地名がその大きな手掛かりとなるのですが、町村合併・分割や地名の変更などで、その地名が移動したり消えてしまったりすることがあります。それらを史料の中から見つけ出し、その位置を特定するために構築されているシステムがGISです。GISは、地図データベース検索システムやベースマップ、地名検索システム、そして土地に結びついた統計などの情報を、空間情報に統合させたGISソフトウェアによって構成されています。これらは歴史研究を行う上で不可欠なデータベースとなっています。水島先生は、このGISに、さらに時間という要素を取り入れてH(Historical)-GISを構築することで、空間情報を時系列で配列し、分析に応用できるデータを蓄積することを提唱されています。目下、H-GISの開発が進行中で、「小学校2年生でも使える」ような直感的で簡単なシステムを採用し、多くの人から時間軸に結びついた空間情報を集め、膨大なデータを蓄積することを見込んでいるとのことです。

H-GISの可能性は、多くの要素を空間情報化し、レイヤーの形で重ねて比較していくことで、仮設の提示、議論の検証を着実に実現させることができる点にあると言います。伝統的に多くの知識が蓄積されてきたヨーロッパと比較するとアジアはこれに及ばず、情報の差がそのまま研究力の差に直結してきたとのことです。しかし、このギャップを埋め、アジアから先端的な研究を創り出すことをH-GISが可能にする、という非常に刺激的なご講演をしていただきました。

ご講演の後のディスカッションの時間では、実際に歴史学を専攻している学生や先生方から、研究にH-GISを応用するときの利点やシステムそのものに対する質問などが多く寄せられ、新しいシステムや研究のあり方について知見が深まる時間となりました。

次回、本講演会シリーズ Special Lecture and Discussion “The Road to Digital Transformation to Change Society”の第4回は、一般財団法人日本自動車研究所 自動走行研究部 研究員 筑波大学 教授 安部 原也氏をお迎えし、「交通事故の防止、自動運転の導入に向けたヒューマンファクター研究」 と題した講演をしていただきます。

2月17日午後5時00分(東京)より開催予定です。