カザフスタン語学研修報告

人文・文化学群人文学類 角濱さくら

研修参加の動機

今回カザフスタン語学研修に参加した理由は以下の3つが挙げられる

  • 昨年の夏にキルギスでの語学研修に参加し中央アジアの文化への関心が以前より高まり中央アジアの文化や生活についてもっと知りたいと感じたため
  • キルギスで生活してみてキルギスとカザフスタンの文化や言語はとても類似していると聞いたことに加え、キルギスの生活用品や食料の多くはカザフスタン産か中国産が多く使用されていたため、キルギスの隣国であるカザフスタンとキルギスで文化や生活でどのような違いや共通点があるのか知りたいと思ったため
  • 昨年のカザフスタン語学研修に参加した学生からカザフスタンのインパクトや感想を多く聞き実際にカザフスタンを訪れてみたいと感じたから

カザフスタンについての考察

カザフスタンにおける文化教育と意識

カザフスタンで生活してみて強く感じたことの一つに国民の自国の文化に対する意識の高さが感じられた。実際にアルマトイで生活して感じたことや現地の学生を中心に質問した結果、自国の文化に対する教育や国民自身の文化に対する意識が高いことが分かった。

図 1ユルタの展示解説

まず文化教育施設の一つに博物館が挙げられるがカザフスタンの歴史や文化を象徴する道具が中心に展示されていた。また文化展示だけでワンフロア使用している博物館もあった。また博物館のみならず美術館でもカザフスタンの伝統を紹介・展示するコーナーが設置されていた。またアルマトイの多くの博物館は青銅器時代または遊牧民時代から始まって現代のカザフスタンの文化や独立、独立後、アルマトイ都市の形成まで時代の流れが分かる展示になっており、独立後の現代のカザフスタンの様子も分かる近代の展示が見られるのも大きな特徴である。日本には国立博物館あるが日本の国というものについての展示施設がないことや、時代順に文化財を展示することは多く見られるが時代の流れや出来事自体が分かるような展示が見られる施設は少ない。また文化や伝統について子供が学べるように子供向けのテキストや練習帳もみられた。内容はユルタの名称や内部の家具の名称や使い方、伝統衣装や道具の名称や使用方法に関する内容についてのテキストとそれに対応する問題集・練習帳が本屋等で豊富に販売されていた。日本でも日本の伝統や文化を紹介する本は販売されているがそれよりも手軽に入手しやすくかつ子供向けの塗り絵帳のコーナーに設置されているようなテキストから図鑑まで数も豊富で手に取りやすく、文化教育へのアクセスが容易であると感じた。さらに大学入試には必ずカザフ語とカザフスタンの歴史が必修である点もカザフスタンの文化を自国民が尊重できる教育が行われていると感じた。日本では多くの大学で国語を必須としているが日本史は基本的に選択である。

図 2独立後のカザフスタンについての展示コーナー

実際カザフスタンでは2050年までの開発目標の中に文化の発展が第一に掲げられてることに加え、2025年までに文化施設への訪問数を50%増加することや学校での文化教育100%の実施を掲げるなど文化に対する教育に力を入れていることが分かる。日本でも近年博物館等で地元の魅力の再発見や地元の文化を知り発信していくことが盛んになりつつある。しかしこれは文化観光推進法の対象に博物館や文化施設が含まれているからであって、教育はもちろんどちらかというと観光のために自文化や伝統を見直している意味合いが強いと捉えることができる。実際に博物館やカザフスタンについての授業では主語が「私たちの祖先」や「私たちの民族・国」といった一人称複数のカザフ人への内へ向けた解説がいくつか見られた。一方で日本の博物館や歴史教育は「当時の人は」「〇〇時代の人は」と三人称を主語とする傾向が強く外への発信力を意識して展示や解説パネルをつくっているという傾向があるように感じた。

ただしカザフスタンではGDPに占める観光の割合を8%まで引き上げたいとの方針を示しているため今後カザフスタンの文化をどのように外へ発信していくのかが課題になると感じられた。実際カザフ国内の学校ではカザフ語の学習やカザフ文学の学習時間が以前よりも重視されるようになっている。また大学に入学する際の試験で多くのカザフ人は試験言語をカザフ語で行う。一方でカザフスタンを訪れる外国人や大学を受験する外国人はロシア語をメインに勉強する割合が多い。実際私がいた準備学部の中国人もカザフスタンの大学を受験するためにカザフ語よりもロシア語を中心に勉強しており、一週間の時間割の中でカザフ語が占める授業時間は非常に少なかった。そのため現在のカザフスタンの文化教育や言語教育はある種国内での消費に留まってしまっている傾向があると考えられる。

研修の成果

今回の研修はキルギスとカザフスタンの文化や生活の違いや類似性について知りたいと思ったことが研修目的の一つであった。実際カザフスタンを訪れてみて食べ物や伝統衣装、生活はカザフスタンもキルギスも類似している点が多いと感じられた。ただカザフスタンの方が伝統文化と現代文化の融合が進んでいると感じた。たとえば伝統衣装やアクセサリーを現代の服と掛け合わせたファッションが多く、普及もインスタグラムやTikTokでいち早く拡散されているイメージが合った。また出来合いや冷凍食品の伝統料理なども販売されいたり、伝統料理と現代の流行を掛け合わせたものがあったりと現代の生活と伝統の融合がアルマトイではいくつか見られた点が興味深かった。またキルギスは中心街でも道路の整備が行き届いていなかったり、トイレが整備されていなかったが、アルマトイは道路の舗装やトイレが整備されておりインフラが行き通っている所がキルギスと大きく異なると感じた。またアルマトイは冬とはいえ物乞いがビシュケクよりも遙かに少なかった事も印象的だった。実際一人あたりのGNIもカザフスタンは8720ドル、キルギスは1180ドル(2021年)と経済的にも大きな差があるのがこのように生活インフラや人々の日常にも影響してると分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

図3アルマトイの地下鉄       図 4カザフスタンの民族分布と割合

またカザフスタンは民族国家であるとは聞いていたが街にいる人の様相だけでなく、博物館の展示でも各民族を詳細に紹介しているコーナーがあり改めて民族というものの存在の大きさに気づいた。日本で生活していると国という単位で意識することはあるが民族という単位で集団を意識する機会は少ない。しかし多様な民族を抱えるカザフスタンは良くも悪くも民族による問題は多いし、国民も民族問題や多民族に対する情報に対して強い関心を抱いている印象を抱き、今まで自分が国という限られた単位のみで文化や歴史を知っていたことが分かり、民族や言語といった別の単位からアプローチしていたらまた異なった見方ができると今回の研修で改めて感じた。

 

参考文献

外務省『政府開発援助(ODA)国別データ2022』https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/region/caucasus/index.html

CIS「В 2022 году Казахстан посетили 4,8 млн иностранных туристов」https://e-cis.info/news/567/113214/

Министерство просвещения Республики Казахстан 『План развития
Министерства культуры и информации Республики Казахстан на 2023-2027 годы』
https://www.gov.kz/entities/culture