2023年3月6日(月)、第39回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催し、宮崎大学多言語多文化教育研究センター教授の藤井久美子先生を講師にお招きして、「多言語国家台湾の今日までの歩み」と題する講演をしていただきました。

 藤井久美子先生は、近現代中国・台湾の言語政策を専門に研究されていて、アヘン戦争から現在までの中国大陸と台湾の言語政策を時系列で追いつつ、中華民国と中華人民共和国の言語認識の違いを分析した専門書『近現代中国における言語政策―文字改革を中心に―』(三元社、2003年)をご執筆されています。 

 講演の序盤では、台湾社会の民族・言語的多様性や、日本と台湾の歴史的背景、台湾における言語教育史を詳しくお話ししてくださいました。日本語に関しては、1895年、日本の植民地支配によって、台湾で「国語」としての日本語教育が始まったのち、1945年以降一転して、中国語教育の推進と台湾語や日本語などの禁止がなされ、その後徐々に日本語教育が解禁される流れをご解説いただきました。また、十二年国民基本教育課程綱要総綱の制定により、閩南語・客家語・原住民族語といった「本土言語」の教育の必修化、2015年現在50万人以上いる、台湾の人と国際結婚して台湾に移住した海外籍の配偶者である「新住民」言語の学習の導入、英語教育の早期化、第二外国語教育(日本語、独語、仏語等)の導入など、社会変化に伴って多様化する言語状況に合わせた台湾の政策についてお聞きすることができました。 

 講演の後半では、「本土言語(郷土言語)」の社会的地位向上と同時に、英語や「新住民言語」も重視して国際化をめざす21世紀の台湾の動きについても、「国家言語発展法」成立の過程等の観点から詳しくご解説いただきました。 

 講演中には台湾の観光場面における多言語状況の写真や、台湾を知ることのできる映画も紹介していただき、台湾の言語政策の歴史と展望を深く知ることのできる貴重な講演会となりました。