2023年11月14日(月)、第43回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催し、日本学術振興会特別研究員PD(総合研究大学院大学)・京都大学野生動物研究センター特任研究員の前田玉青先生をお招きして、「ドローンから探る馬の社会」と題する講演をしていただきました。

 前田先生は、ウマの持つ重層的で複雑な社会のしくみを、ドローンを用いて明らかにする研究をされています。野生ウマを観察していると、飼育下では見られない行動や表情にたくさん出会うのが研究の魅力とのことです。今回の講演では、ポルトガルのアルガという山に生息する野生ウマについて、最新の技術であるドローンと動物行動学の知識を組み合わせた研究成果をご紹介いただきました。 

 ウマはハーレムをつくる動物ですが、ハーレム同士の関係についてはまだ研究が進んでいないそうです。そこで、ウマのハーレム同士の関係を調査する際にドローンを用いると、たくさんの動物を一度に観察できるうえ、直接観察するより動物へのストレスが少ない、人が近寄れないところでも観察できる、一頭一頭にGPSをつけるよりかなり安いなど、多くのメリットが得られます。 

 ドローンを用いた調査によって、ウマは、群れが集まってさらに集団となる「重層社会」をつくることが明らかになりました。ウマの重層社会では、ハーレム同士は区別があり、その境界線は交わらない一方で、異なるハーレムが一緒に行動し、休息時間が同期するなど、同じ群れとして過ごすこともあるとのことです。重層社会はヒトのほか、哺乳類であるウマやサルの仲間、アジアゾウ、マッコウクジラ、シャチ、鳥類であるホロホロチョウの仲間などにみられます。重層社会をつくると、小さい群れでいるメリットと、大きな群れでいることのメリットを両方得ることができるので、ウマの重層社会が進化したのではないかというお話しでした。 

 今回の講演会では、実際にドローンから撮ったウマの群れや解析図などを豊富な写真と動画でご紹介いただくことで、最新の調査手法に触れつつ、ウマの社会に対する知識を深めることのできる貴重で充実した講演会となりました。 

第43回