2024年12月20日(金)、第50回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催しました。筑波大学人文社会系助教の宗野ふもと先生を講師にお招きし、「ウズベキスタンの暮らしの変化と手工芸―毛織物生産の事例から―」と題する講演をしていただきました。
宗野先生は中央アジア地域研究・文化人類学をご専門とされ、2014年に京都大学にて博士号を取得されています。15年に渡り、ウズベキスタンにおける長期住み込みを通じた手工業と社会関係の研究に取り組んでこられました。
今回の講演では、ウズベキスタンにおいて近年顕著にみられる織物生産業の急速な衰退とその社会的背景についてお話しいただきました。ウズベキスタンでは1991年の独立後、国を挙げた手工芸品の振興事業が行われてきました。その一方で、成功する手工業家と苦戦する手工業家の格差の出現、安価な「ウズベク風」輸入土産品の流入、外国企業の誘致によるファスト・ファッション工場などの稼働に伴う人材流出等の社会的要因によって、近年では技術継承の危機にあるといいます。
講演では、宗野先生が15年にわたってフィールドワークを行っているチロクチ地区の村落における調査をもとに、2010-2011年ごろと2024年現在の当該地区における毛織物生産の変化についてお話しいただきました。まずはじめの2011年ごろの状況についての解説では、当該地域での毛織物の種類やその生産プロセス、作る行為とモノとしての絨毯の社会的意味などについて色鮮やかな写真とともにご説明くださり、聞き手はウズベキスタンの毛織物の世界へとぐっと引き込まれることとなりました。一方後半は、2024年の聞き取り調査でみられた毛織物生産の急速な衰退と、織り手たちによる一見謎めいた理由の説明に、聴衆は一気に毛織物の衰退を巡る謎解きの旅へと誘われます。今後さらに考察を深めていく予定であると断りつつ、宗野先生は、従来、より経済的に儲かる対抗的な仕事の登場によって衰退すると考えられていた手工業生産が、必ずしも経済的な要因によってのみではなく、「合間の仕事」である手工芸生産の優先度低下や、「毛織物の価値の多元性」が喪失することによるモチベーションの低下といった諸要因によって引き起こされている可能性を指摘されました。伝統工芸の衰退という現象自体は、グローバル化・情報化する世界のなかで珍しい話ではないかもしれません。しかし、ウズベキスタンにおける毛織物生産の衰退について調査することは、毛織物という手工芸そのものの生産形態の特殊性や、その背景にあるウズベキスタン社会の独自性について教えてくれる、重要な研究焦点である、と述べて、講演は締めくくられました。
質疑応答では、毛織物生産をめぐるその他の関連要因や、現代の中央アジアにおける絨毯生産の工業化やサプライチェーンをめぐる状況について等、多くの質問が寄せられ、講演会は盛況のうちに終了しました。