2023年6月8日(木)、第41回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催し、早稲田大学高等研究所講師のアンダソヴァ・マラル先生を講師にお招きして、「日本古代神話と中央アジアの伝承世界 -シャーマニズムの視点から見えてくるもの-」と題する講演をしていただきました。

カザフスタン出身のアンダソヴァ先生は、古代日本文学がご専門で、古事記の研究に長く取り組んでこられました。先生は、カザフ国際関係外国語大学東洋言語学部を卒業されたあと、佛教大学で文学の修士号と博士号を取得されています。 

 今回の講演では、日本古代神話と中央アジアの伝承を、夢を通して神々と交流するという観点等からお話しいただきました。はじめに、日本古代神話について、崇神天皇の夢に大物主の神が現れ、疫病の鎮め方をお告げしたという伝承や、垂仁天皇の御子が言語障害を負っていたが、夢で得た出雲の大神のお告げに従うと話せるようになったという伝承など、夢が神々と交流する通路となるお話をご解説いただきました。 

 つぎに、中央アジアの伝承世界、とくに、ヤサヴィー廟とアルスターン・バブ廟という聖人のお墓の造営に際して、夢でお告げを受けたという伝承と、8世紀に実在したとされ、聖人であり、シャーマン、叙事詩の語り手でもあるコルクットの伝承についても詳しくご紹介いただきました。伝承の一つに、死の神がコルクットを捕まえにくるという話がありますが、イスラム教では生と死は唯一神によって決まるため、死の神と戦うことは唯一神と対立することを意味するそうです。それゆえ、ムスリムの語り手はコルクットは自ら死の神に従ったと語り、イスラム教に反発する語り手はコルクットと死の神の対立を描くなど、コルクットの伝承には多くのヴァリアントがあるとのことでした。 

 質疑応答では、中央アジアにおける女性シャーマンの伝承の有無や、現代の中央アジアにおけるシャーマニズムをめぐる状況について等、多くの質問が寄せられ、古代日本と中央アジアの伝承世界に誘われる魅力的な講演会となりました。