2020年12月14日(月)、公開講演会シリーズ「中央ユーラシアと日本の未来」の第17回目として、放送大学・洗足学園音楽大学非常勤講師、上智大学共同研究員の山下正美氏を講師にお招きし、「南シベリア・トゥバの民族楽器製作」と題する講演をしていただきました。

山下氏はテュルク系の民族音楽学をご専門に研究されており、今回はロシア連邦内のトゥバ共和国を構成する基幹民族である、トゥバ人の音楽と、そこで用いられる楽器、そして現在の楽器製作に関する状況を中心にお話ししていただきました。講演の中では、モンゴルを通じてチベット仏教を受容した遊牧民族トゥバ人の紹介から、イギル、喉歌といった弦楽器と歌唱法、そしてトゥバ音楽を支える民族楽器製作者についても説明していただきました。講演の途中では、著名なトゥバ音楽グループ「フンフルトゥ」の演奏を鑑賞する場面もあり、馬の嘶きをなぞったイギルの調べと、広大なステップ地帯に吹く風のような不思議な喉歌に魅了されました。


講演の中心は、トゥバ音楽に欠かせないイギルの製作を牽引する二人に関する説明でした。一方は現代の技術も活用しつつ今のイギルの規格を決定したと言える製作者、他方は自然の営みのみで楽器を作り上げる製作者といった風に、両者の差異をわかりやすく対比させながら、そのお話しを通じてイギルの本質に迫っていく講演となっていました。講演後の質疑応答では、フォルクローレ音楽と芸術音楽の齟齬と民族的アイデンティティのあり方に関する質問や、成長していくトゥバ音楽シーンを背景とした学校音楽教育のあり方に関する質問など、聴講者からの質問が相次ぎ、その一つひとつに山下氏に丁寧にお答えいただきました。

この講演会の模様は、12月31日までmanabaにて動画配信されました。