2021年7月8日(木)、第26回公開講演会シリーズ「中央ユーラシアと日本の未来」を開催しました。今回は、特別に共催の日本言語政策学会会長である山川和彦先生にモデレーターをお願いし、山本契太ニセコ町副町長とニセコ高等学校教諭の中谷知記先生のお二人を講師にお招きして、「SDGsと多文化社会─先駆的な試みを行う北海道ニセコ町─」をテーマに講演をしていただきました。

ニセコ町は北海道の後志振興局管内に位置し、美しい山ニセコアンヌプリと、雪質の非常に良いスキースポットとして知られています。人口は5000人ほどですが、冬になるとニセコのパウダースノーを求めて世界各国からスキーヤーが訪れるため、毎年、冬季になると人口が600人ほど増加し、夏に減少する傾向があります。こうした背景を持つニセコ町で、SDGsの目標達成や多文化社会の実現に向けてどのような取り組みが行われているのか、行政と教育の二つの面よりお話しいただきました。

山本契太副町長には、行政面に関して、「多様性」を柱にした取り組みをお話しいただきました。多様性を受け入れる社会を実現するための取り組みとしては、国際交流員というものがあります。日本語が堪能な外国人が国際交流員としてニセコ町に居住し、世界の絵本を読み聞かせたり、ラジオ出演をしたり、他のニセコ在住の外国人に日本語を教えたりといった多種多様な活動をしており、外国人が社会にいることが普通で当たり前という感覚が根付いてきているとのことでした。

また、中谷知記先生には、教育面に関して、ニセコ高等学校のグローバル環境コースにおける「地域で取り組む多様性を育む教育」についてお話しいただきました。グローバル環境コースでは、地域で活躍するグローバル人材育成を目指し、地域おこし協力隊などの地域のグローバル人材による講話や、国際交流員との交流授業が授業に組み込まれています。非常にユニークな取り組みとして、希望制の高校4年生の例が挙げられていました。新型コロナウイルス流行以前はマレーシアのホテルで研修を行っており、現在は、ニセコエリアのワイナリーでの研修を行い、生徒達はグローバル感覚に限らず様々なスキル、姿勢を身に付けているとのことです。

もともとの住人たちとニューカマーである外国人などとの間では摩擦がまったく生じないわけではありません。しかしニセコ町ではその摩擦を「創造的摩擦」と呼び、互いに尊重しあう環境を作っていくために受け入れています。「だれも取り残さない」SDGsの考え方に通じる、ニセコ町に住む人々が地域の課題等を自分の事として捉え、立場や背景も関係なく議論し、行動することが実現されていることがわかり、これからの多様性ある社会を先駆けしたその取り組みは多くの聴講者に深い印象を残しました。

この講演会の模様は令和3年7月9日~令和3年7月18日までmanabaにて動画配信されました。