2021年10月18日(月)、第32回公開講演会シリーズ「中央ユーラシアと日本の未来」を開催しました。今回は、京都大学白眉センターの特定准教授相馬拓也氏を講師にお招きし、「シルクロードに伝わる秘技、騎馬鷹狩(きばたかがり)文化の起源を求めて ~イヌワシとカザフ族イーグルハンターの出会いと別れの物語~」と題する講演をしていただきました。
相馬先生には、第20回目の講演会でも環境NGO団体「ヒマラヤ保全協会」の会長という社会活動家として講演をしていただきましたが、今回は地理学者として、2年間フィールドワークを行われたモンゴル西部のカザフ民族に伝わる騎馬鷹狩文化についてお話いただきました。
相馬先生は、モンゴルの西端に位置し、ロシアおよび中国と国境を接するバヤン・ウルギー県のサグサイ村という、カザフ人が多く住む地域にて2年ほどカザフ遊牧民とイーグルハンターのフィールド調査を行われました。
今回のご講演では、騎馬鷹狩のためによく飼育されているイヌワシと人間の「出会いと別れ」、関わり方についてお話いただきました。実は、鷹狩に使うイヌワシは死ぬまで飼育しているのではなく、巣の雛鷲を捕まえて人間に慣らし、5年ほど狩りをして子どもを作れるようになったら、野に放しているそうです。イヌワシを捕まえると、腕に留まるためのバランス感覚を養ったり、健康状態を保てるように餌を食べさせたり、家畜や子供を襲わないよう目隠しの帽子をかぶせたりなど様々な手順を踏んで訓練してから、冬の間狩りを行います。イヌワシは非常によく食べるため、一年間に約250キロもの餌を用意しなくてはなりません。騎馬鷹狩は非常に手間とコストがかかる営みではありますが、鷹狩で得たキツネの毛皮で民族衣装を作ったり、鷹狩のために美しい装飾に富んだ道具を作ったり、さらにイヌワシに対する畏敬の念、聖性が育まれていたりと、カザフ族の自然とのかかわりの中で核を成すようなかけがえのないカルチャーとなっています。しかし、問題点もあり、ここ最近では、祭りのためにイヌワシを持つ人も増え、鷹狩文化がデモンストレーション化し、これまで培われてきた自然崇拝観が衰退することでカザフ鷹狩文化が存続していかなくなるという懸念があるとのことです。
質疑応答では、モンゴルとカザフの鷹狩の話から世界の鷹狩全体に関して、さらには学生からのフィールドワークに関する質問など、多岐にわたる質問が出ました。