2025年5月22日(木)、第55回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催しました。元ウズベキスタンJICA海外協力隊の伊藤卓巳氏を講師にお招きし、「ウズベキスタン観光業の課題と可能性 サマルカンドでのJOCVとしての活動から」と題する講演をしていただきました。

伊藤氏は、2019年から2024年のうち約3年間、ウズベキスタンのサマルカンドを拠点にJICA海外協力隊で観光職種の隊員として活躍されていました。観光案内所で現地学生と協力しながら観光振興を推進する傍ら、自らSNS(Xなど)でウズベキスタンの旅行情報を発信し多くの人気を集めています。

講演では、伊藤氏が現地で感じたツーリズムに関する所感や課題、また現地の人々と行った取り組みを中心にお話しいただきました。伊藤氏の主な活動拠点は観光案内所であり、現地出身のマネージャーや、言語・観光学を専攻する学生たちと協力しながら、来訪者に喜んでいただける対応を心がけて活動されていました。また、ガイドを志す学生にとっても、自国の文化を改めて学ぶ貴重な機会となるよう努めておられました。

活動を通じて伊藤氏が課題として挙げられたのは、観光業における「外国人の視点に立った情報発信の不足」でした。この点については、ウズベキスタンの民族的な特徴として、「困ったときは誰かに聞けばよい」という“聴覚情報”に依存する傾向が影響しているのではないかと指摘されていました。また、観光ガイド人材の不足も深刻な課題として挙げられています。ガイド志望者そのものの減少に加え、ガイドライセンス制度の導入により、学生が現場で実習を積む機会が減少しているとのことです。さらに、ライセンスを取得するためには高額な学費を伴う養成学校への進学が必要となり、この経済的負担も人材確保の障壁となっていると説明されていました。

こうした課題解決に向けて、観光案内所で様々な取り組みを始められたそうです。無料で配布する市内地図やバス路線図を作成するほか、観光客のニーズに合った土産商品の開発・販売にも取り組まれました。また、将来ガイドを目指す学生たちには、外国人と交流する楽しさを体験してもらうことを目的に、外国人旅行者向けのフリーツアーを実施しています。これにより、実践的なガイドの機会を提供するとともに、学生自身のモチベーション向上にもつなげています。

最後に伊藤氏は、ウズベキスタンの親しみやすく温かな国民性や、多様な観光資源の存在を挙げながら、同国の観光業が持つ大きな可能性について語られました。

講演終了後には、ウズベキスタンは外国人観光客を誘致したいと思っているのか、ガイド業はもともとあったのか、現政権はウズベキスタンのイスラームを伝統として世界に誇ろうとしているが観光業においてそのような要素はみられるかなど、多岐にわたる質問が寄せられ、活発な質疑応答が行われました。こうして講演会は盛況のまま締めくくられました。