海外語学研修ロシア語 C実施報告書

理工学群社会工学類        柴田    葵

  1. 目的
図1:Golden Dragon Bus

第一に言語も宗教も地理的条件も全く異なる場所に身を置くことで、自分の好奇心を高めること。またロシア語やカザフ語を通じてカザフスタンの文化を知ること。次にカザフスタンの交通インフラを実際に見て、体験すること。カザフスタンにおいて公共交通がどのように運用されているのかを知る機会にしたい。中国製の Golden Dragon Bus が大規模に導入されており、またアスタナやアルマトイで LRT の運用が開始する予定であるので、その実態を確かめたい。

  1. 公共交通

メトロは 1 路線のみで、バスは約 130 路線 800 台¹。バス車両は いろいろなタイプがあり、2 台連結、マイクロバス、一部トロリーバスなどがあった。バス停にもいくつかの種類があった。郊外(アクサイ方面など)では簡易的なバス停が多く見られ、またマイクロバスを利用した小規模な路線も標識のみの場合が多かった。市街地では基本的にすべてのバス停に止まるものの、郊外では乗客から申し出て降車する必要がある。ただし、標識が通常の道路標識と同じであり、歩行者には分かりづらい。

図2:上屋(サイネージ)          図3:上屋(デザインコンペ)     図4:標識(セットバック)       図5:標識のみ

またバスロケーションは地図アプリ上で見ることができる。路線番号で検索したり、ルート設定すると予想到着時刻を示したりとシームレスな仕様が使いやすかった。日本では、都営バスの位置情報は Google マップで表示できるが、その他の地域では運行会社が異なるため、個々にサイトを作ってバスロケ情報を発信していることがある。もっとも、大都市圏では地下鉄が十分に発達しているため、バスに関する情報への需要が少ないことも事実であろう。

個人的な関心としては、アルマトイのバス路線が LRT など比較的容量の大きい交通に転換したときにどれだけ渋滞や快適性に影響するのか検証したくなった。また路線の重複が多く、路線の最適配置やダイヤ設計によって、利便性の向上を目指せると考えている。これにより待ち時間率が改善するのではないかという予想だ。私は街なかを人がたくさん歩いているというのが好きなので、LRT が発展したらうれしい。

市街地の歩行環境については快適で(図 6)、歩車分離(軽自動車)も進んでいた印象が強い。余談になるが、バス停の手前で自転車レーンが迂回するパターン(図 7)や歩道の切り下げの形がお気に入りである。

図6:Zhibek Zholy駅近くの歩道
図7:バス亭手前の自転車レーン

 

 

 

 

 

 

 

  1. アルマトイでの暮らし

今回の研修はホームステイによる滞在だった。ホストファミリーと過ごすことで知れたカザフの暮らしがあった。料理はもちろんのこと、ホストファミリーと一緒に市南部の山にある日本人抑留者によって作られた道を訪れたのも大変よかった(図 8)。中でも家でカタンというボードゲームをしたことは印象に残っている。普段ホストマザーとはロシア語で、ホストブラザーとは英語で話すことが多かったが、カタンをするときはみんなカザフ語だった。滞在中、カザフ語を生活で使う場面というのはまれだったため、新鮮な感覚が心地よかった。おかげで私のカザフ語の語彙には木、れんが、羊、石が加わった(図 9)。普段使う言語についてカザフ人に尋ねると、家ではカザフ語、外ではロシア語を使うという人が多かったように思う。

他にも、市内に複数ある劇場(演劇、民俗劇、バレエ、オペラなど)を訪れたのは、よかった。それぞれに専用の劇場があり、比較的安価に観覧することができる。また子供向けのパペットシアターや音楽ホールもあり、芸術分野の充実ぶりに驚いた。公演そのものはもちろんのこと、建築や伝統衣装を模したスタッフの制服も見ていて非常に楽しかった。また、ウィンタースポーツの複合施設や都市公園、ボタニカルガーデンなど多様な施設に足を運ぶことができた。どれも市街地から簡単にアクセスできる立地だった。

図8:Ile-Alatau(ホストマザーと一緒に)
図9:カタンのカード
図10:ボタニカルガーデンにて

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 最後に

今回の滞在で、アルマトイの交通を存分に知ることができた。日本とは地下鉄とバスの立場が逆転 したような公共交通で面白かった。バス路線も、主要な施設や駅をつなぐのでなく、小さなハブを通過していく運行方法は、日常になじんでいて、私の好きな形である。でも過度に市街地に車が走っている現状は変わっていってほしいと思う。この意味で公共交通の快適性が向上することは必要であり、私の関心は場所を問わず変わらないのだと認識できた。

またこの研修でのもうひとつの大きな成果は、カザフの「人」を知れたこと。伝統的な家族観が色 濃く見られ、チャイを通じた日常のコミュニケーションが新鮮で楽しかった。またホストブラザーからドンブラを習ったり、興味のある言語について語り合ったり、共通の関心を通じて話題が広がっていくのが心地よかった。セメイから来た、日本の大学を目指す高校生にも出会うことができた。コーヒーショップで話しかけてくれた写真家の青年からは、アルマトイのスペシャルティーコーヒーのお店を教えてもらい、さらには彼を通じて現地のバリスタたちのカッピングセッションにも参加できた。またカザフ人に限らず、セネガル出身のバリスタやロシア人ピアニストとの出会いもあった。

普段の生活を飛び出すことで、自らの好奇心をむき出しにできた日々だったと感じている。

しかし同時に思うのは、今回はあくまで外国人としてカザフで生活したに過ぎず、本当の意味でカザフの人を、暮らしを知るにはやはり言葉が必要だということだ。次にカザフスタンを訪れる時にはもう少しロシア語なりカザフ語に通じていたいと思う。これまでは漠然とした興味関心で言語を学ぶことが多かったが、現地で過ごすことで言語を学ぶ明確な理由を得ることができた。言葉を知れば文化を知ることになると思っていたが、その実、言葉を使ってその社会に入り込むことで初めて本当の文化を知れるのだと思う。言語を学ぶことそれ自体も面白いが、その先にあるより魅力的な体験をできるようになりたい。

  1. 参考文献
    “PUBLIC TRANSPORT OF ALMATY CITY”, Official Internet – resource of public transport of Almaty (alatransit.kz) https://alatransit.kz/en(参照 2024-2-8)