移住先としてのカザフスタン

国際総合学群第一類1年 吉弘有希 

1. はじめに(カザフスタンについての概要) 

カザフスタン共和国(以下カザフスタンと呼称する)は約272万平方キロメートルの面積を持つ巨大な国である。この面積は世界第9位に相当し、南米のアルゼンチンやアフリカのアルジェリア、コンゴと僅差である。ただし、カザフスタンは北緯40~50度に位置し、通常、メルカトル図法の地図で見るほど大きくない点には注意が必要である。カザフスタンはこの広大な土地に約2000万人の人口を抱える国であるが、この人口の殆どは都市部に居住しており、国土の大半において北部はステップ、南部は草原や砂漠気候の平原が広がる。 

政治、経済の観点から見るとカザフスタンは広大な国土から多く産出される石油やウランなどの資源の恩恵により中央アジアにおいて最も先進的な国家となっている。また、旧ソ連邦構成国ということもあり、ソビエト時代の科学技術を受け継ぎつつも近年では中国やヨーロッパとの関係を強化し、技術開発を進めている。現に、私が訪れたカザフ国立大学においては中国の人工衛星、空撮用ドローンを利用しながらリモートセンシングの研究を推進していた。 

カザフスタンは中国、ロシアと長大な距離の国境を共有する国家であることから、政治的にはロシア、中国との友好関係を維持しつつもアメリカ、ヨーロッパとの関係も重視する中立的な立場を維持している。一方、日本との政治的結びつきは中国や韓国ほど強くないものの日本人に対する印象は総じて友好的なものであり、購入に際して政府からの資金援助がある韓国のヒュンダイに並んで、トヨタや日産、スバルといった日本車を数多く目撃する事ができる。 

以下、私が1ヶ月という一つの国を理解するには非常に短い期間に収集したカザフスタンでの見聞を記述する。一点断っておくと、本稿ではカザフスタンという国に興味を持ち、ぜひ行ってみたいと思っていただくことを目的として記述するため、学術性にはあまり期待しないでいただきたい。また、非常に冗長になってしまったので、長すぎて読めない場合には6章まで読み飛ばしていただくことを推奨する。 

 

 2. 研修参加の動機  

まず、私の本研修への参加の動機について述べる。その動機は様々な要素から成り立っているが、総じて「日本における生活が好きではない」という点に集約される。つまり、私は日本(での生活)が嫌いである。その理由をここで詳細に述べることは差し控えるが、大まかにまとめると私にとって日本という島国の閉鎖的で集団主義的なコミュニティは窮屈に感じるのである。例えば、日本では一般的に直接的な表現をすることはあまり好まれない。遠回しな言い方をすることを美德とする文化が根底にあるのである。これは同じ島国であるイギリスでも同様なようである。日本は島国である上に、農耕を中心として発展してきた国であるため、集団生活における調和を保つためにこのような文化が育まれたのだろう。もちろん、私も過剰に直接的な表現は好まない。しかし、かと言って遠回しな言い方で「察する」ことを求められることもまた疲れるのである。 

そこで、ユーラシア大陸の中央に位置し、遊牧民族を基調とする(中央アジアの中では最も経済的に裕福な)カザフスタンで生活してみようと考えたのである。カザフスタンはカザフ人が7割、ロシア人が2割、その他隣国のウズベク人やウクライナ人(ソ連時代に移住)、ドイツ人(第二次世界大戦において捕虜として連行され、そのまま定住)などを含めたヨーロッパ出身の人々で構成される国家である。アルマトイ市内ではバスや地下鉄において、日本人と全く見分けのつかない人々から明らかにヨーロッパ系の顔立ちをした人々まで混在しておりカザフ国内の多民族性について意識させられる光景であった。さらに、カザフ人の中でも東西南北に広く伸びる国土の中で異なる出身地に根ざす人々はそれぞれ大きく異なった文化を持つのである。次章で詳述するが、例えば、私がこの度訪れた東のアルマトイとアクタウという2つの街の様子は到底同じ国と思えるものではなかった。 

ただし、これらの人々を結ぶつながりとして「カザフ語」「ロシア語」が存在するのである。ロシア語はカザフスタン国内では未だに共通語としての地位を保っており、全く異なる文法体系ながらも国語としてのカザフ語と同等の地位を保っている。多民族性だけを考慮すればアメリカを始め他の国に行く選択肢もあったが、大学でロシア語を学んだ私にとってロシア語を使用できる環境であるカザフスタンは非常に魅力的な場所であったのである。 

いずれにせよ、私の本研修への最も大きなモチベーション(もといテーマ)は「カザフスタンは将来的に(日本から脱出した際の)移住先になりえる存在か」というものであった。 

 

 3. カザフスタンに移住できるか

前述した通り、私の本研修参加におけるメインテーマは「カザフスタンは将来的な移住先として不足のない存在か」というものである。結論から述べると、私にとってカザフスタンは将来的に移住先にすることは難易度が高いと思われる。その理由は以下に記述する。 

まず、衛生的な問題がある。カザフスタンでは日本と異なりマスクの着用や消毒液の使用があまりなされておらず、したがって病気になりやすい環境であると言える。また、アルマトイ市内では特に大気汚染の問題も深刻であり、タバコの路上喫煙もよく行われている。このため、カザフ人の平均寿命は74.5才、健康寿命は61.6才と日本よりも10才以上低くなっており、肺がんを始めとする呼吸器疾患が高齢者の間で多く見られる。アルマトイにおいて大気汚染の程度を図る方法として「南部の山脈が見えるか」と言う指標があると聞いたが、天山山脈までは約30kmであり、以下に大気汚染により視程が低下しているかがわかる。また、カザフスタンにおける料理は塩分や油分を多く使用するものが多く、チョコレートを始めとする糖分を多く含む菓子の摂取も盛んであることから、高血圧や糖尿病などにより引き起こされる循環器の疾患が主要な死因となっている。このように、健康面で言うと日本よりも過酷な面があり、現に私も入国してから1週間ほど経ったころに風邪をひいてしまった。その際に、カザフスタンの風邪薬を服用したが、日本の薬よりも圧倒的に効果が強かった。カザフスタンでは病院に行く代わりに薬局を多用することから、市内の各地に薬局を見つける事ができ、三軒連続で薬局という事もあった。

奥に見える天山山脈が霞んでいる
本当に三軒連続аптека(薬局)である。緑の十字マークが薬局を表している

 

 

 

 

 

 

 

次に、交通機関の問題が挙げられる。アルマトイ市内にはバス(トロリーバスを含む)、地下鉄、そしてタクシーの3つの公共交通機関がある。カザフスタンにおいて交通費は非常に安く、バスや地下鉄では一回の乗車につき40円ほど、タクシーは距離によって変化するものの市内であれば概ね500円〜1000円ほどで乗車することができる。また、バス、地下鉄ではONAYと呼ばれる交通系ICカードが普及しており、タクシーはヤンデックス(Яндекс )と呼ばれる配車サービスのアプリケーションが利用できる。これらは概ね便利ではあるものの、実際に生活するにあたってそれぞれに問題を抱えている。まず、バスでは通勤時間帯に非常に混雑する点が挙げられる。さらに、運転が荒いためなにかに掴まっていたとしても目的地に到着するまでに体力を消耗してしまうという点も挙げられる。ただし、女性や高齢者には必ず席を譲る文化があり、この点は非常に優れた慣習であると感じられた。また、バスの位置情報をすべてインターネット上で確認できる点も利便性向上に大きな役割を果たしていると思われた。次に、地下鉄について述べるが、地下鉄はアルマトイ市内に一路線しかなく、利便性の観点からは少し使いにくいものであった。また、地下鉄に乗る際に荷物検査が必要となり、非常に面倒であるという点も不便さを助長していると考える。ただし、時間的な正確さは交通機関の中では随一である。最後に、タクシーについて述べる。タクシーはタクシーアプリを通じて呼ぶことで非常に便利に利用することができるが、他の交通機関よりは費用がかかること、渋滞により到着時間が左右されることが欠点となる。このように、交通機関は日本(東京)と比べると不便に感じてしまうものであった。また、これを受けて私自身の価値観や行動にも変化があったように思われる。

まず、健康状態や交通機関の例から分かるようにいかに日本のインフラが整備されているかを実感することとなった。病気の際にすぐにかかりつけの医師に安価でかかれることや、分単位で正確に稼働する日本の鉄道などは当たり前のものではないということが身にしみた。

次に、なんだかんだ日本のものを探しているという点が挙げられる。例えば、日本料理店や日本車、日本の漫画やアニメなどが自然と目に入ってしまうということである。日本では全く気にしていなかったこれらのものも海外という地では自分のアイデンティティの一部になりうるということに気がついた。例えば、中国人と間違えられる際のなんともいえぬ感情は紛れもなく日本人としてのナショナリティに由来するものであろうし、少なくともその間違いは否定したくなるのである。このように、本人の意志にかかわらず日本というナショナリティから逃れられないということを深く感じた。さらに、言語の壁は想像以上に高いことを痛感した。例えば、携帯の翻訳が使えなくなった途端にバスに乗ることすらも一苦労するようになるといったことである。特に、ロシア語と同等以上の地位を持つカザフ語が全く理解できない私にとっては時々出現するカザフ語のみの案内表示などから情報を得ることが不可能であり、生活において少々苦労したことがあった。現在、カザフスタン政府はカザフ語を国語として推進する政策を遂行しており、若い世代の中では徐々にロシア語離れが進んでいることから、我々がいかに道具に頼りすぎていたかを痛感した。また、言語の壁を甘く考えていた事に気がついた。

最後に、気が大きく、大雑把な人々が多い点にも適応に時間がかかるように感じた。例えば、アクタウで雪原とはいえ吹雪の中を時速100kmで携帯を片手に運転するタクシー運転手には少し恐怖を感じた。

このように、日本での生活が嫌であるという考えは視野の狭さにより発生していたものなのかもしれないと感じた。どのような環境においても良い面と悪い面があるものであり、隣の芝は青く見えるのである。研修を経て、今ある環境をいかにより良くするかを考えるほうが端から諦めて逃げ出すことよりも生産的である場合もあるのかもしれないと感じるようになった。

以上を考慮すると、カザフスタンへの移住は今の私には少し難易度が高いかもしれないと感じた。しかし、社交的な人が多く町並みは綺麗であり、治安も比較的良い国であるため世界基準で見れば住みやすい国と言えると考えられるので、他の国との比較をすることでさらに相対化できるようにしたいと思った。

 

4. カザフスタンでのエピソード

以上、少々真面目なことを記載してきたが本稿の趣旨はここからである。私がカザフスタンに滞在して経験した様々なびっくりエピソード、困ったこと等をまとめたものである。今後、カザフスタンに行ってみたいと思ってくれた読者の参考になることを期待する。

4-1. インターネット・電子機器について

私は現地で物理simを購入するのが嫌であったため、日本においてesimを購入した。しかし、カザフスタンに到着後esimは作動せず、空港のwifiにも接続できなかったため早々にスマートフォンが置物と化してしまい、非常に困った記憶がある。結局、現地学生の補助を受けながら現地のsimカードを購入することで事なきを得たが、今後カザフスタンに訪れる皆さんには素直に現地でsimカードを購入することをお勧めする。一か月35GBでおよそ2000円程度である。

また、スマートフォンの機種についても様々な問題が発生した。私はsharp製の某スマートフォンを利用していたが、度々、インターネットに接続することができなくなったり、なぜか日本にいるときよりも以上に電池の消耗が早くなったりした。周囲を見渡すと、iPhoneを利用している学生は快適に利用できていたようなので、カザフスタンに行く際にはiPhoneの携帯を持っていくことをお勧めする。

さらに、モバイルバッテリーについても注意が必要である。カザフスタンでは電圧が日本よりも高いことから、スマートフォン充電用の変圧器を通したとしても日本のモバイルバッテリーは壊れやすい傾向にあるようである。私はモバイルバッテリーの表示が充電100%になっているのを信用した(つまり、実際には0%である)結果、気温-12℃のアクタウで行動不能になりホテルにたどり着けず凍死しかけたり、どのバスに乗ればよいか分からなくなり家に帰れなくなりかけたので、絶対にモバイルバッテリーは信用できるものを持って行くべきである。

最後に、インターネット決済についてである。前述したが、タクシーに乗る際にはヤンデックス(Яндекс)というアプリを利用するが、このアプリはロシアの影響かにあるため、日本のクレジットカードを直接登録できないようである。もちろん、乗車後に現金で支払うこともできるが、高額紙幣を受け取ってくれないこともあるため、日本でapple pay やgoogle pay 等にクレジットカードを登録しておくことをお勧めする。また、その際にはインターネット決済可能なクレジットカードであることを確認しておく必要がある。

このように、現代人の生命線であるインターネットについては細心の注意を払うことをお勧めする。

 

 

 

 

 

4-2. 医療関係について

カザフスタンは中央アジア諸国の中では先進的な国であり、医療技術は高水準であるものの日本と同じ意識で過ごすことはお勧めできない。例えば、日本においては完全に根絶された狂犬病等の感染症が未だに残存している。カザフスタンではアルマトイ市内に限っても野犬が数多く徘徊しており、各家庭にも飼い犬、飼い猫が数多くいることから想像以上に動物と触れ合う機会は多い。私のホームステイ先にも飼い猫がいたほか、近くのバス停では毎朝よく野犬を見かけた。私は出国前に狂犬病ワクチンを打っていなかったことから、帰国後に10万円ほどかけ、5回に分けて1ヶ月間暴露後ワクチンを注射することとなってしまった。狂犬病は発症すると致死率100%という非常に恐ろしい病気であり、潜伏期間が1~3か月ほどある上に発症までは検査により感染を確認することができない厄介な病気である。予防接種は2万円ほどかかってしまうものの、命を2万円で守れると考えると非常に安いものである。カザフスタンに行く際には必ず狂犬病ワクチンは接種することをお勧めする。また、日本人はカザフスタンにおいて風邪をひく可能性が非常に高いことにも気が付いた。私の周囲でも1/3ほどの日本人が風邪をひいていたように思われる。カザフスタンの風邪薬は効果は高いものの、薬局(аптека)での薬の購入はハードルが高く、寮生活やホテル生活では自分で対処しなければならないため、日本の風邪薬を10日分程度は持っていくことをお勧めする。

4-3. お金について

カザフスタンにおいて、現在最も主流となっている決済手段は「カスピ(KASPI)」と呼ばれるQRコード決済である。ただし、残念ながら短期滞在の日本人はカスピを利用することができない。なぜなら、カザフスタンにおいて銀行口座を所有していなければならないからである。そこで、日本人が最も現実的に利用できる決済手段はクレジットカードと現金である。クレジットカードは基本的にタッチ決済が可能なものを利用することを推奨する。また、銘柄はVISAやMaster Cardが便利である。私はAMERICAN EXPRESSのクレジットカードを試したことがあるが、店によっては利用できないことが多々あったため、前述の2銘柄をお勧めする。

また、現金については両替の際に高額紙幣を受け取らないように注意することをお勧めする。現在、カザフスタンでは硬貨の他、500、1000、2000、5000、10000、20000テンゲの紙幣が流通しているが、20000テンゲの紙幣を受け取ってくれる店は限られており、使うことができないまま財布の中で置物と化す可能性が高い。そのため、両替の際には20000テンゲは(蒐集するつもりでなければ)できる限り受け取らないことをお勧めする。

4-4. アクタウについて

私は本研修中にカザフスタン西端に位置するアクタウという町に訪れたため、アクタウにおけるエピソードをいくらか記載しておく。アクタウはカスピ海沿岸に位置する町であり、カザフスタンのカスピ海権益の要となる重要な町である。当初は石油をはじめとする鉱物採取のために1960年代ごろから開発が始まった町であり、比較的新しい町であるとも言える。そのためか、町の雰囲気がソ連時代のままであり、バス停の名前が”совет автобус ”であったこともその名残であろう。

アクタウの町は平原に囲まれており、私が訪れた2月末には気温が-12℃であった。試しに夜に濡れたタオルを5分間振り回したら棒のように凍ったので、寒さは折り紙付きである。 雪が多く積もる地域であるが、歴史的には慢性的な水不足に悩まされる地域であり、カスピ海の水の浄化等により水資源を確保している。夏は有名な保養地であり、多くの観光客が訪れるが、冬は人気のない静かな町である。アクタウ国際空港はアクタウの町からは30kmほど離れた場所に位置しており、空港から町までは一般的にはタクシーを利用する。ただし、白タクも多く存在するため注意が必要である。また、雪がナンバープレートに張り付くことで自分が呼んだタクシーがどれか分からなくなりがちであるので、これも注意が必要である。

タクシーを呼ぶと町まで連れて行ってくれるが、その道中は過酷なものであり、吹雪の雪原の中をひたすら走り続けることとなる。タクシーの運転手の中には運転が荒い人も多く、私の場合には車間距離3m、時速100kmで運転された。スリップしたら確実に天に召されることとなるので、冬にアクタウに行く際にはある程度覚悟しておくことをお勧めする。

アクタウ市内は典型的なソ連の街並みであり、大きな建物に全館暖房といった様子である。比較的新しい町であるためか残念ながらアクタウ固有の料理などはあまりない模様であり、多くのレストランでは一般的なカザフ料理が提供される。魚料理なども思ったほどは見つからなかった。一方、雪の中の街並みは非常に美しく、カスピ海を臨んだ港町は海のないカザフスタンにおいて非常に珍しいものであったと思われる。

カスピ海は沿岸は緑がかった色をしており、沖に行くにつれて色が濃くなっていた。また、湖とは思えないほど広く、対岸を見ることはできなかった。アクタウに向かう途中、アラル海も飛行機から見ることができたが、こちらも想像以上に水が残っており、上空からの景色はきれいであった。

カスピ海
アクタウ市街地

 

 

 

 

 

 

 

上空から見たアラル海
凍り付いたタオル

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4-5. 食事について

カザフスタンの食事はロシア料理と中央アジアの伝統料理が混在しているものであり、慣れると美味なものが多いものの、入国から数日は塩味が濃く、油分の多い食事に苦労することが予想される。また、カザフスタン人は非常によく食べるため、レストランで出てくる食事は少々多めに感じるかもしれない。私が一か月過ごした中でおいしいと思った料理は数多くあるが、同時においしくないと感じた食事も幾分かあったので、それぞれ紹介したいと思う。

まず、おいしいと感じたものを紹介する。基本的にカザフ料理はおいしいものが多いため選定するのは難しいが、私は「シャシリク(шашлык)」、「ラグマン(лагман)」、「ベシュバルマク(бешбармак)」、「ドニエル(донер)」等が特に気に入った。

シャシリクとは、串に刺した肉を焼いた料理であり、日本の焼き鳥に似た料理である。焼き鳥との相違点は肉の塊の大きさと肉の種類である。鶏の他、牛や羊の肉を最大10cm角程度に切り、串にさして焼いたものがシャシリクであり、味付けは塩が基本であるため素材の味を感じることができる。

ラグマンとは、トマトベースのソースを絡めた焼うどんのような料理であり、麺は日本のうどんに非常に似ている。ものによっては辛い物もあるが、総じて日本人にとっては最も食べやすい料理の一つであると思われる。

ベシュバルマクは小麦でできた太い麺の上に茹でたジャガイモと馬の肉を載せた料理であり、味付けは塩と油という非常にシンプルな料理である。たいていの場合、量が非常に多いものの、シンプルな味付けであるがゆえに食べやすいと感じた料理である。

最後に、ドニエルとはトルティーヤに似たソースで味付けした肉や野菜等を巻いた料理である。こちらも非常に美味であるが、付属の黄色い唐辛子の漬物(おそらくドニエルにさして食べると思われる)は非常に辛いので一気に食べ過ぎないように注意することをお勧めする。

シャシクリ
ベシュバルマク
ドニエル[1]

 

 

 

 

 

 

次に、おいしくないと感じたものは、「クムス(кумыс)」「シュバット(шубат)」「クルト(курут)」である。これらの味や風味については説明が非常に難しいので、ぜひ、現地で試してみてほしい。

クムスとは馬のミルクを発酵させたものであり、酸味と塩味が強い飲み物である。シバットはラクダのミルクである。場合によっては少し発酵させていることもあるようである。こちらのシバットはレストラン(特にNAVAT)などのお通しとして出てくることもある為、比較的お目にかかる機会が多いと思われる。こちらもクムスと同様に酸味と塩味が強い飲み物であるが、クムスほど強烈ではないため人によってはヨーグルトの様に感じることもあるかもしれない。

最後に、クルトは中央アジアの伝統的なチーズである。一つの大きさが直径5cm程度の小さなものであるが、間違っても一口で食べてはならない。なぜなら、塩味が非常に強いからである。私が食べた際には味はほとんど感じられず、塩のかたまりを食べているような感覚であった。また、非常に硬いため食べ終わるまで時間がかかり、強い塩味に耐え続けなければならなくなることからも一口で頬張ることはやめておくことを強くお勧めする。おそらく、パン等と一緒に食べるとおいしくいただけるだろう。

シュバット
казахстан(度数40%)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

以上はあくまで個人的な嗜好に基づくものであり、決して客観的な指標に基づくものではないのであしからず。カザフスタン人にとっては上記の全てが大切な国民食であり、舌に合わないならば無理して食べることはないが、決して侮辱してはならない。とりあえず口に入れてみることは良い経験となるので、私の紹介に関わらず気になったものは(その衛生状態を確認してから)食べてみることをお勧めする。

4-6. 国際女性デーについて

カザフスタンには3月に国際女性デー(международный женский день)と呼ばれる祝日がある。この祝日には男性が身の回りの女性に花を贈る風習があり、日本の母の日と似ているが花を贈る対象は家族の他、先生や恋人など多岐にわたる。一般的に渡す花はバラやカザフスタンの国の花であるチューリップが主流であり。一輪あたり800~1200テンゲほどで入手することができる。ただし、5~10輪の花束にして渡すことがほとんどであるので紳士諸君においては一人当たり最低でも5000テンゲ(日本円で約2000円ほど)、人数によってはそこそこの出費になることを覚悟して臨むことをお勧めする。

4-7. 誕生日について

私のホームステイ期間中、ホストシスターの誕生日がちょうど同じ時期にあり、誕生日のパーティーを開催した。カザフスタン人は大人数を集めたパーティーを好む傾向にあり、結婚の際のパーティーでは最大300人ほど招待することもあるらしい。私のホストシスターの誕生パーティーでも15人ほど招待しており、ホームパーティーとしてはかなり大規模なものであったと思う。カザフスタンの誕生日プレゼントは日本とは異なり、お金を渡す習慣がある(諸説あり)。私の場合は5000テンゲを封筒に入れてプレゼントしたが、ホストマザーに聞いたところ、お金をもらうことで自分の好きなものを買える方がよいとのことであった。確かに、自分の好きなものを購入できる点は合理的である。

また、パーティーにはお酒がつきものであるが、カザフスタン人は非常にお酒に強い人々が多いので、お酒に自信のない方々は何か理由をつけて飲みすぎないように気を付けることをお勧めする。一度グラスを開けてしまうと次から次へと注がれてしまい、私も少々飲みすぎたことがあったのでお気をつけあそばせ。なお、カザフスタンでは酒・たばこは21歳からになるので注意すること。

4-8. 時間感覚について

カザフスタンでは時間の流れが日本と異なっている。日本では電車が10分遅れただけでも大事になるが、カザフスタンでは30分程度の遅れは許容範囲である。そのため、授業などの遅刻は頻繁に発生する(先生が15分ほど遅れてくることもよくある)。よって、時間に厳しい態度はカザフスタンでは生きづらくなるだけであり、寛容になることをお勧めする。時間感覚に限らず予定に関しても結構適当であり、予定が当日になって降ってくることもまれにあるが、いちいち怒らずに相手方に合わせることをお勧めする。ただし、過ごしているうちに自分も時間にルーズになる可能性があるため、日本で疎まれたくなければ要注意である。

4-9. 意外と豚も食べられる?

カザフスタンの主要な宗教はイスラム教であるが、イスラム教では禁忌とされる豚もアルマトイにおいては食べることができる。そもそも、アルマトイにはキリスト教(正教会)の教会もあるので思ったほど厳しくはないのかもしれない。アルマトイのバザール(зелёный базар)には精肉市場等もあり、鶏、牛、馬、羊肉の他に豚肉の市場もしっかり設置されている。また、市場では香辛料のにおいが強いため、あまり臭いと感じないであろう。壮観なので一度訪れてみることをお勧めする。

精肉市場の俯瞰写真
豚の頭部

 

 

 

 

 

 

 

羊の頭部
耳や鼻、舌など各種取り揃えている

 

 

 

 

 

 

 

4-10. おもちゃ屋について

最後に、カザフスタン人と日本人の感覚のずれを最も如実に表していると感じたエピソードを紹介する。それは、おもちゃ屋においてのエピソードである。端的に述べるとカザフスタンのおもちゃ屋は軍事色がものすごく強いのである。掲載した写真を参照していただければご理解いただけるであろうが、かなり大規模なおもちゃ屋にも関わらずその多くが軍事関係の模型やおもちゃで埋め尽くされていた(もちろん、女の子向けの人形やスポーツ関係のおもちゃなどもいくらかは置いていた)。見渡す限り、戦車、軍艦、戦闘機や爆撃機といった軍用機、そして小銃や防弾チョッキ等が並んでいるのである。カザフスタンは旧ソ連構成国であり、18歳から男性に兵役があることからも日本と比較すると軍事に対する抵抗感はかなり低いように感じられた。最後に、日本人としては(賛否両論あると思われるが、個人的に)抵抗感を感じるおもちゃも一つ見かけたので写真を掲載しておく。興味がある方は「桜花」と呼ばれる特攻兵器について調べてみてほしい。

このように戦車や船が並んでいる
日露戦争時の軍艦も模型になっている

 

 

 

 

 

 

さながら武器屋である
おそらく太平洋戦争を題材としたもの

 

 

 

 

 

 

問題の特攻兵器?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5. おわりに

本レポートは第4章のあたりでブログのような形となってしまいましたが、これらの情報は事前準備の際に私自身が知っていたら便利であったと思える情報を読みやすいようにまとめたものであり、今後、カザフスタンに行く学生の一助となればと思い執筆したものであるので、先生方においてはご容赦いただきたく思います。もちろん、上記した内容はたった1ヶ月しか滞在していない学生が書いたものであり、実際にはもっと驚くべきことがカザフスタンには秘められていると思われます。私にとっても非常に魅力的な国であり、もう一度行

きたいと思える国であるので、ぜひカザフスタンに行ってみてはいかがでしょうか。

 

参考文献

WHO, Life expectancy at birth ,The global health observatory, 2021,
https://www.who.int/data/gho/data/indicators/indicator-details/GHO/life-expectancy-at-birth-(years)

WHO, Healthy life expectancy at birth, 2021
https://data.who.int/indicators/i/48D9B0C/C64284D

在カザフスタン日本国大使館,「アルマティ案内」, 2019 Advanttour, 「アクタウ、カザフスタン」
https://www.advantour.com/jp/kazakhstan/aktau.htm

ロシアNIS経済研究所,「カスピ海の法的地位に関する協定締結の地域開発に与える影響と展望」,2019)

写真引用

[1] https://burum.by/product/doner-chiken/ より

狂犬病に関する厚生労働省ホームページ
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou10/07.html

感染が疑われる場合にはこちらを参照(厚生労働省検疫所 FORTH)
https://www.forth.go.jp/index.html