2022年11月15日(火)、第38回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催し、関西学院大学商学部および大学院言語コミュニケーション文化研究科教授の柿原武史先生を講師にお招きして、「持続可能な移民政策について考える -スイスの地方自治体における外国人統合政策と言語サービスの事例から-」と題する講演をしていただきました。

スペイン語圏の社会言語学、言語政策がご専門の柿原隆史先生は、現在、スペインのサンティアゴ大学ガリシア語研究所にてガリシア語とその言語政策、世界各地で形成されてきたガリシア人社会における言語や文化の保持などに関する研究をされています。今回の講演では、ガリシア人移民の多いスイスにおける移民受入政策や言語教育について、フランス語圏のヴォー州とローザンヌ市、フランス語・ドイツ語圏のビール/ビエンヌ市の具体的な事例をご紹介いただきながら、その様子をお聞きすることができました。

スイスでは、個人の言語使用の自由を保障しつつ、属地主義に基づく厳格な公用語政策をとっていて、移民に対してもその地域の公用語への統合を強く求める政策が実施されています。一方、受け入れの初期段階においては多言語による情報提供を実施し、経済的、社会的に不安定な地位にある移民の立場に配慮した施策を実施する例も見られるとのお話でした。また、子供に対する言語教育も、成人に対する言語教育も、共に移民を主流社会に統合するための言語教育というよりも、他の市民と同様に社会にアクセスして、労働市場に参入するための基礎的な能力を身につけさせるという発想で提供されているという点が特徴的だとのことでした。

講演後には、移民受入に関してスイス国民に行われる教育や、学校教育において移民の子供たちを指導する専門家について等、多くの質問が寄せられました。今回の講演でご紹介いただいたようなメリハリをつけたスイスの移民統合政策は、日本社会の移民政策の未来を考える上でも、非常に参考になる事例となりそうです。