2022年11月4日(金曜日)、第37回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演を開催し、WHO西太平洋事務局コンサルタントの西尾彰泰先生を講師にお招きして、「グローバルメンタルヘルスとはなにか」と題する講演をしていただきました。

西尾先生は、精神科医としてのお仕事のほか、藤田医療大学、岐阜大学、琉球大学などで、職場でのメンタルヘルスや、ギャンブル依存症の他、開発途上国における精神保健の分野について研究されてきました。2022年7月からは、WHO西太平洋事務局コンサルタントとして、フィリピンに赴任されました。

講演の序盤では、日本国内、そしてケニア、ガンビア、タイ、カンボジア、ラオス、フィリピン、インド、アメリカなどの海外で行ってきた発展途上国のメンタルヘルス支援の充実化を図るための活動を教えていただきました。フィリピンでは、学校にメンタルヘルス教育を導入するため、メンタルヘルスに関する教科書の作成を行い、人々のメンタルヘルスへの認識を高める支援を行われてきました。また、海外だけではなく国内においても、自殺対策、引きこもり対策、ホームレス支援、難民支援、障害者就労支援など、メンタルヘルスの専門家としての先生の知識を活かして支援をされてきました。

グローバルヘルスの目的は、医療が必要な地域の「1人」のためではなく、地域の「全員」に医療を届けるための仕組みを作ることこそが本来の目的です。そのため、地域の医療機関と医療につなげるための支援を充実させるための基礎作りが最重要課題であるとのお話しでした。カンボジアでは、精神病患者が抱える経済状況、発展途上国では医療機関が発達していないため患者を医療へつなげることの難しさなど、メンタルヘルスを充実させていくために存在する、現在の課題と問題についても教えていただきました。

以上を踏まえ、メンタルヘルスがなぜ発展途上国で発達していないのか、そしてこれからメンタルヘルスの発展を推進していくため、どのような評価指標を持つべきなのかという、重要な問題を提起されました。発展途上国では、精神科医が少なく、国際機関や外国による精神保健プロジェクトがほとんどありません。その理由として、日本の国際協力機構であるJICAを例にして見ていくと、メンタルヘルスが達成すべき課題として取り入れられていないため、これらの活動ができなくなっていることがわかります。WHOでもメンタルヘルスに関する部門は非常に小さく、メンタルヘルスの重要性が国際的に見ても周知されてない現状が見て取れます。

この理由として、精神科医の待遇の低さと、プロジェクトを評価する指標が存在しないため、事業の必要性が可視化されにくい現状があることをお話しいただきました。

そのため、これからメンタルヘルスの重要性を浸透させるためにも、精神障害者にとって良い社会を目指していくために、

①精神病を発病したあと、患者が早い段階で、精神科を受診できる。

②精神病患者に対する偏見が少ない。

③重度の精神病患者が治療を継続できる。

④精神病患者が、社会の中で生産的な役割を果たすことができる。

という、この4点をメンタルヘルスの成熟度を評価する指標とする必要があるとのことです。

講演後には、医療体制、国ごとの民族性・地域性、国際的な枠組みでの精神障害に対する規定などが、現在の発展途上国でのメンタルヘルス、精神病患者の扱いにどのような影響を及ぼしているかについて多くの質問が寄せられました。これらの質問に対して西尾先生は、WHO西太平洋事務局でコンサルタントとして持たれている国際的な枠組みの視点、さらにこれまでの発展途上地域での豊富な経験をもとに回答されていました。グローバルメンタルヘルスという新しい学問分野に関して、学びの多い貴重な講演会となりました。