2021年7月26日(月)、第27回公開講演会シリーズ「中央ユーラシアと日本の未来」を開催しました。今回は、東京国際大学国際関係学部および同大学院国際関係学研究科の岡本能里子教授を講師にお招きし、「多文化共生社会ニッポンにおけるコミュニケーション課題-多様性に拓かれたことばの教育を考える-」と題する講演をしていただきました。
岡本先生は、社会言語学、日本語教育、言語教育政策などの分野を中心にご活躍されており、現在日本言語政策学会の副会長を務めていらっしゃいます。日本の言語教育政策の中でも、ビジュアルコミュニケーションの必要性という観点からの研究に意欲的に取り組まれており、言語教育における従来の4技能5領域という観点に「見る」という技能を取り入れた教育法をご提案されています。
今回のご講演では、メディアの発達に付随して視覚情報に重きを置いたコミュニケーションが台頭していく世の中で、重視されるようになる言語能力とはどのようなものか。また、社会の多言語・多文化化が進み、様々なバックグラウンドを持つ人々がある一つの言語を学び、運用するようになるとき、円滑なコミュニケーションというのはどのようなものになるか、共有してきた価値観などを批判的に見直して振り返ることによってそれを再構成するということについて、お話ししていただきました。
現在、COVID-19の感染拡大や自然災害など、様々な人々の命に係わる重要な情報を発信し、伝達しなければならない場面が増えています。このような場面では、やさしい日本語や公共サインといった、あまり日本語が分からない人でもなるべく直感的にわかりやすくデザインした情報が必要とされています。しかし、言葉に頼らない「見る」という能力も、文化的なバックグラウンドに基づいた文法に近いものがあり、矢印やイラストのような基本的な視覚的情報であっても、自身の言語文化の暗黙知をもとに理解しているとのことです。そのような中、医療や行政の現場ではどのように取り組みが行われているか、最新の動向をお話しいただきました。
また、これからの言語教育について、「まなびほぐし(アンラーニング)」の観点から、実際の授業の例も交えてお話しいただきました。現在の価値観を批判的に見つめなおし、他者との対話を通して振り返る活動が、新しい価値や知識を取り入れる柔軟性を得る下地になっている様子が伺えました。
他にも、LINEのスタンプに見られる共通言語的用法の観察や、ビジュアルサインの見方が言語文化的背景の違いによって異なってくることを、身をもって実感することのできる例など、非常に豊富な話題と切り口で、参加者それぞれの言語生活に対して新たな問題意識がもたらされた会となりました。
この講演会の模様は令和3年7月26日~令和3年8月8日までmanabaにて動画配信されました。