2022年6月3日(金)、第4回オンラインによるロシア・中央アジア映画上映会が開催されました。第4回目となる今回は、モルドバ内の分離国家「沿ドニエストル共和国(トランスニストリア)」で初めて撮影された劇映画、エウジェン・マリヤン『鳥のミルク』(2021)を上映しました。

ヨーロッパ最貧国とも言われることの多い旧ソ連を構成していたモルドバの東部には、ウクライナとの国境にドニエストル川を隔てて「沿ドニエストル共和国(トランスニストリア)」という未認可国家が存在します。国際的にモルドバの一部と広くみなされている分離国家ですが、ロシア系住民が多く住み、ロシア軍も駐留していることから火種を抱え、今年2月のロシア軍によるウクライナ侵攻によってその緊張はさらに高まっていました。そのため、広報を開始してから3日で200人もの申し込みがあり、前3回の上映会と同様、定員500名を超える方からの参加希望がありました。

今回も上映前に、NipCAプロジェクトのコーディネーターを務める梶山祐治UIAが「ウクライナの<隣国>沿ドニエストル共和国の表象」と題する事前解説を行いました。旧ソ連諸国内に存在する代表的な未承認国家の紹介を通して、これらの国家とロシアの関係、共通する周辺諸国との問題が提示されました。その後、「沿ドニエストル共和国」を舞台とした小説やドキュメンタリー映画を通して、この「国」がどういった地域なのか、その具体的な生活や歴史についての講義がありました。

今回の上映作品は、キリスト教(正教)モチーフと深く関連した作品で、事前解説ではその一部に簡単に触れましたが、物語の核心に関わる部分が多いため、あえて『鳥のミルク』に関する解説は限定的にしていました。ただし、上映後アンケ―トで「難解だった」という声が多かったため、上映後に事後解説を追加したスライドを参加者の方々にPDFで送付することにいたしました。より詳細な解説は、今後、報告書として刊行予定ですのでご期待ください。

「難しかった」という意見が多く見られた一方で、「映像がきれい」「音楽が良かった」といった感想も多く寄せられ、「沿ドニエストル共和国」に住む市井の人々に共感する声も見られたことは重要なことだと考えています。「未承認国家」のように、そこに住んでいる人間について具体的に報道される機会のほとんどない中で、映画はその地域と住民への具体的な想像力を涵養することができるからです。
様々な地域の具体的な生活を紹介するため、NipCAプロジェクトでは今後も引き続き上映会を開催していく予定です。