キルギス語学研修    研修報告

人文文化学群・人文学類 角濱さくら

研修参加の動機 

私が今回のキルギス共和国での語学研修に参加した理由は大きく2つある。一つ目はロシア語能力の向上である。今回の研修は一日5時間のロシア語の授業に加え、三週間のホームステイのプログラムが組み込まれており自分のロシア語能力を向上させることができると考えたためである。また昨年度の春休みに実施されたカザフスタンでのロシア語研修に参加を検討していたものの自分のロシア語の能力で一ヶ月のホームステイでの生活を送ることに自信がなかったため、半年経ったこの時期の語学研修へ参加しようという考えに至った。二つ目は中央アジアに興味があったためである。もともと中央アジアの建築や文化遺産に魅力を感じており、今回中央アジアの一つであるキルギス共和国へ渡航することができるということで今回の研修に参加を踏み切った。 

 キルギス共和国についての考察

 キルギス共和国は観光客や外国人が多く利用する施設・場所と現地住民が生活を送る施設・場所で言語表記や施設の整備・機能の面で大きな差が存在すると考えられる。例えば日本の観光ガイドブックにも記載されている国立歴史博物館の展示解説パネルはキルギス語・ロシア語・英語の表記が見られるが、アカデミー付属の博物館やカフェ等に併設されている外国人観光客向けではない博物館の展示パネルはロシア語とキルギス語の表記または、ロシア語のみの表記しか見られない。また現地のガイドもイシククルのような一大観光地だと英語のツアーガイドも存在するがそうでないところは基本的にロシア語でのガイドが一般的で英語でのガイドは実施されていなかった。 

 図 1 多言語表記の解説パネル

 一方で遺跡や観光地内に存在するトイレや駐車場、道路等のインフラの整備やゴミ問題は観光地であってもそうでない場所でも変化がないという印象を受けた。例えばトイレはブラナのような世界遺産に登録されているような場所であっても個室内の床に穴を開けて、そこに用を足すという簡易なものやチョルポン・アタの山の斜面に位置する岩絵の博物館はブラナのトイレ同様かつ屋根がついていないものやトイレットペーパーが完備されていないトイレも多々存在した。またゴミ問題も同様でビシュケク市内は広場等にゴミ箱が多く設置されているもののブラナではゴミ箱はあるものの数は少なく塔の下やトイレの穴に紙と一緒に捨てられている様子がみられた。そのためブラナでは遺跡内にペットボトル専用の大きなゴミ箱が設置されていた。しかし世界遺産に登録されると景観にも大きな配慮が必要になる。そのため大きなゴミ箱を設置して遺跡内からゴミを撤去する手段をとっている一方景観破壊の原因となる巨大なゴミ箱の設置でゴミ問題を対処している様子が見受けられた。

図 2 岩絵博物館のトイレ

 図 3 ブラナの塔の下で確認されるゴミ

 このようにキルギス共和国では観光地とそうではない場所での言語表記に大きな差が見られる一方、トイレやゴミ・道路等のインフラ整備は観光地であっても住民中心の場であってもあまり差はみられず、むしろ郊外に位置する遺跡の方が設備が簡易かつ整備が進んでいない印象を受け取った。

図 4 ビシュケク市内の道路

図 5 ブラナの塔に隣接される駐車場

 日本は近年外国人観光客を受け入れるために観光地での言語表記やトイレ等のインフラ整備は重要視されている。博物館でも文化財の多言語表記が求められており英語はもちろんのこと韓国語や中国語も表記する博物館が多い。またその他の言語は解説パネルに記載されているQRコードで読み取って多言語解説を読むことができるという博物館も増加してきている。一方今回の研修で確認できたそのようなQRコードで多言語解説を読むことができる施設はチョルポン・アタに最近できた観光施設一つのみであった。 

 このようにキルギス共和国における観光客に対する対応には場所によって大きな差があると考えられる。データは古いが2006年に調査したキルギス共和国への国別外国人観光客数はカザフスタンだけで全体の63%を占める。また上位三カ国はカザフスタン、ロシア、ウズベキスタンで85%(渡辺・他 2008)といずれもロシア語が通用する国が占めるため現代に至るまで英語表記が必要性が弱く、英語表記のある施設が少なかったのではないかと考えられる。 

キルギス語学研修成果 

 キルギス共和国を訪れる前はキルギス共和国が旧ソ連圏だったこともありロシアからの影響を強く受けていたり、影響が見られたりすると思っていた。しかし実際に訪れてみるとロシアの影響は見られるが日常で使用している製品の多くは中国製が思っていたよりも多くそのギャップに驚きを感じた。また、民族意識も強く至る所でテュンデュクの模様が見られたし、国立歴史博物館でも入口正面はキルギスの古代文字の展示や民族を象徴する展示がメインとなるように展示されていた。そのためキルギス共和国に行く前後でキルギス共和国に対する対外関係や国民のもつアイデンティティーに対する考えを実際に感じることができた。 

図 6 国立歴史博物館での古代キルギス語の展示

 ロシア語については大学ではできない一日5時間のロシア語の授業を通して、ロシア語のリスニング能力やスピーキング能力を向上させることができた。また、私のクラスは私以外みんなロシア語を専攻とする学生であったため他大学の学生の話をきいてロシア語の勉強の仕方や専攻の学生の授業の様子などを聞くことができた。またロシア語だけでなくロシアや中央アジアの経済や歴史等の意見交換もでき自分の考えを深めることができた。そのため自分がロシア語を勉強する際の参考にしたり、自分のロシア語の勉強のモチベーションを高めたりすることができた。 

 ホームステイではキルギス共和国での生活を肌で感じることができた。特に興味深かった点は買い物の仕方である。買い物をする際は何事も店員と商品の値段や性能、味についての会話をよくしていたことが印象的であった。また売り方も量り売りが多い点、肉などはグラム単位ではなくキログラム単位での買い物など買い物の量や規格の違いが興味深かった。また家のことに対して家族全員で取り組んでいることも興味深かった。誰か一人に家の仕事が集中するのではなく、家族に何かを頼まれたら断らずに率先して行っていたのが印象深かった。さらに一緒に住んでいる家族だけでなく親戚との繋がりも非常に強い点も面白いと思った。 

 今後について 

 今回のキルギス語学研修でロシア語のリスニング能力を大きく向上させることができたが、単語が分からず生活や授業でも単語ばかりを調べて単語に時間をかけている時間が目立った。そのため文法はもちろんのこと、日常会話でよく用いられる単語をしっかり押さえたいと思った。またよく使用する単語の活用は複雑でこんがらがってしまったため、もう一度整理しながら復習したい。 

 また今回キルギス共和国を訪れて文化財や遺跡の保護の仕方や活用の仕方、観光対策について日本では見られない様子も多く見られるため、文化財や遺跡を保護する上でどのような保護制度や国際協力がとられているのか調べてみたいと思った。 

 

参考文献 

渡辺悌二・マクサトアナルバエフ・岩田修二(2008)『キルギス共和国の 自然保護地域と観光開発』「地理学論集」