日本とカザフスタンの共通点と相違点 ~人間性と喫煙事情から~
社会・国際学群国際総合学類2年 大菅佑真
1. 動機
自分がこの海外語学研修ロシア語Cを履修した動機は、ロシア語をただ大学で椅子に座って学ぶだけでなく、現地で実践することでより“身体”でロシア語を覚えようと思ったことと、長期休暇を利用し海外に行くことに魅力を感じたためである。しかし自分は当初、カザフスタンでロシア語研修を行うことに対し、わずかに消極的であった。理由は入学当初、さらに言えば高校時代に「ロシアに留学すること」を大学での目標にしていたため、カザフスタン研修はウクライナ侵攻でロシア留学が叶わなかったことに対する「代替案」でしかなかったからである。実際に研修前にロシア語に対しモチベーションがあったかというと微妙であった。そもそも心の中ではロシア語を勉強する意義さえ失われていた。「ロシア語を学んだところでロシアに行けるわけではないし、社会に出て役立つかさえも微妙だ、せいぜいマイナー言語やっていたという話のタネになるくらいだろ」でさえ思っていた。しかし、実際にカザフスタンに滞在し、現地の生活や文化に触れてその考えに変化が生まれた。自分はその中で「考えを改めることができた理由」について考えた。その結果、カザフスタンと日本の文化等に似ている点があり、自分が現地の“空気”を早く受け入れることができ、積極的に人々とかかわっていこうという気持ちが芽生えたからだと結論づけた。自分は以上のことから日本とカザフスタンの共通点や相違点、特に滞在時に自分にとって特に影響があったカザフスタン人の「親切心」や「喫煙事情」について興味を持ち、帰国報告書に記そうと考えた。
2. 日本とカザフスタンの地理的比較(基礎情報)
・日本
国土面積:377,975.64平方キロメートル
人口:1億2354万人
公用語:無し(事実上は日本語)
国旗:図 1
・カザフスタン
国土面積:2720,4900平方キロメートル(日本の約7倍、世界第9位の国土面積)
人口:1980万人
公用語:ロシア語(カザフ語は国語)
国旗:図 2


3. 日本とカザフスタンにおける親切心の比較
日本とカザフスタンの文化的な共通点として「親切心」が挙げられる。自分はカザフスタンで生活する中で、親切心や高齢者を敬う場面に遭遇した。特にバス車内では、若者が積極的に高齢者に席を譲るという場面を多く目にした。また、満員のバスで大きな荷物を持っていると、座席に座っている人が代わりに持ってくれるという場面にも遭遇した。当初はスリを警戒していたが、何も奪われなかったので心からの親切心であったことが分かった。日本でも同等のことが時々行われるが、カザフスタンでは日常的に行われており、日本人の意識と比較し、同等どころかそれ以上のものを感じた。一方で、満員のバスで「どけ!」と言わんばかりの勢いで無理やり乗ってくる乗客や、満員でドアが閉まらないことに対して乗客とバスの運転手が口論している場面にも遭遇した。自分はここから、カザフスタン人の「高齢者を敬うことや他者に対する親切心」と「他人を押しのけてでも利益を得ようとする図々しさ」が共存するカザフスタンに非常に関心を持った。カザフスタンにいる現在、このことについてより深く調べることは困難なので、帰国後これについてさらに調べていきたい。
4. 日本とカザフスタンの喫煙事情
自分は喫煙者である。そのためカザフスタンにおいても喫煙を行っていたが、その中で気づいたことについて述べようと思う。まず、カザフスタンでは喫煙が可能になる年齢が21歳であり、20歳から喫煙できるようになる日本より厳格であるように思われる。しかし、実情は異なる。自分が現地で感じたことは、カザフスタン人の喫煙率の高さである。国立がん研究センターによると、2023年における日本人の喫煙率は男女計で15.7%である。一方でWHOによると、カザフスタンの喫煙率は2024年で22.2%であった。一見すると日本とカザフスタンの喫煙率に大きな違いはないように見られる。しかし実際に滞在して、カザフスタンの喫煙率は22.2%以上だと感じた。街中いたるところで路上喫煙が行われており、大学の授業の合間の休憩時間では大学前の道路で多くの学生が喫煙していた。また、歩道には多くの吸い殻が捨ててあり、非常に汚かった。驚くべきことに未成年喫煙も横行しており、自分が喫煙所で仲良くなった現地人学生の多くは18.9歳であり、カザフスタンどころか日本ですら未成年喫煙にあたる年齢であった(彼らの名誉のためにも詳細は割愛する)。タバコは街中いたるところで販売されており、スーパーマーケットやキオスクだけでなく、バザール付近では高齢の女性が開封済みのタバコを路上販売していた。年齢確認は規模の大きなスーパーマーケットではパスポートの提示を求められたこともあったが、マガジンやキオスクでは年齢確認は行われなかった。また、タバコ一箱の値段も日本のタバコの1/2ほどの値段であり、非常に手に入りやすいものであった。一方で、日本のコンビニように人目に付く場所にタバコは置かれておらず、人目につかないように売られており、店員に「タバコを欲しい」と伝えた時のみラインナップを見せてくれるという方式である。喫煙環境は、公共の場所では喫煙が禁止されている場合が多いものの、いたるところに灰皿が置いてある。このような環境下では未成年喫煙が横行し、日本より高い喫煙率であることに納得がいく。



海外のタバコというとパッケージにグロテスクな画像が貼ってあることが多いが、カザフスタンのタバコも例にもれずパッケージに大きくグロテスクな画像が貼ってある(図 3、図 4)。それに対し、日本のタバコは文字による注意のみである(図 5)。ここからわかることは、日本とカザフスタンのタバコ規制はかなり異なるものであるとわかる。カザフスタンはタバコ自体の規制、つまり喫煙可能年齢やタバコのパッケージを主に規制の対象にしているが、喫煙を行う環境への規制は不十分であると言える。一方で日本は、タバコ自体への規制は緩いが、喫煙を行う環境の規制を主に行っている。例として路上喫煙の禁止やそれに対する罰則などが挙げられる。このタバコの規制は国によって異なるものであると考えられるので、カザフスタンだけでなく、CIS諸国やほかの国々の喫煙事情についても興味を持った。帰国後に調べてみようと思う。
次に、「③日本とカザフスタンにおける親切心の比較」と関連する事柄であるが、カザフスタンでは非常に「タバコの貸し借り」が多いと感じる機会があった。例えば、大学の前の喫煙所で知らない学生から「タバコを一本くれ」と何度も言われた。また大学どころかバス停やタクシーを待っている時に、本当に知らない人からタバコを要求されることや、「ライターを貸してくれ」といったことがかなりの頻度で起きた。そしてタバコを一本渡したり、ライターの火を貸したりすると必ず、「ラフメット」(カザフ語)や「スパシーバ」(ロシア語)と感謝してくれるのである。このようなことは日本ではほとんど行われない。ライターの火を貸すという行為は日本でも頻繁に起きるが、タバコ一本を求めるケースはほとんど見られない。恐らく日本で同様のことを自分が行った場合、求められた人はとても嫌がるであろう。このような状況が成立するのは、カザフ人に親切な人が多いか、それともタバコ一箱の値段が安いがゆえに起こるのかどうかは分からないが、非常に興味深いものであった。
5. 研修前後で変わったこと、成長したこと
自分はこのロシア語・カザフ語研修でロシア語がかなり上達したと思う。理由は日常的にロシア語を使うことで単語と意味が紐づけられたことや、積極的に話すことで自然と文法が身についたからだ。また、主に喫煙所を通して多くのカザフ人学生や他の大学のロシア語専攻の学生と仲良くなれたことが自分のロシア語上達の大きな要因となっている。彼らは、自分の拙いロシア語を一生懸命聞きとり、間違いがあれば訂正してくれるのである。これによって自分は間違えることを恐れずにロシア語でコミュニケーションを取ることができたのである。また語学研修だからこそ、日本の大学の授業では学ぶことができないスラングや罵倒表現などを現地の学生から教わることができた。もちろんここでは書けないものばかりである。しかし、これらのスラングや罵倒表現を覚えて、積極的?に使うことでさらに現地の学生と距離を縮めることができた。しかし、当初は距離を縮めることを怖がっていた。理由は、喫煙所で仲良くなったものの、相手は強面であり、やはり少し怖かったからである。しかし、コミュニケーションをとっていくうちに彼らがとてもやさしいことに気づいた。彼らは自分に大学等では絶対に学べないであろうロシア語やカザフ語の単語を教えてくれた。自分もまた、カザフ国立大学の日本語の授業では学べないような日本語の単語を教えた。そんな彼らと、深夜にドライブでコクトベ・パークに行ったことや、飲み会でウォッカのショットを飲んだことは自分にとって忘れられない思い出である(図 6、図 7)。一方で反省点もある。それは、自分が「日本についてあまり知らなかった」ことである。日本文化等について現地の学生から聞かれたときうまく説明することが難しかった。また、「北方領土問題」等について質問されたときにうまく説明できなかったことは非常に悔しかった。今後、再び海外に行く機会があれば、今回学んだことを活かし、現地人との交流を積極的に行い、現地に溶け込んでいきたい。また、母国である日本について更に勉強し、日本文化について上手く説明できるようにしたいと思う。
最後に、今回のカザフ研修で出会った現地の学生との交流は、オンラインを中心に続けていきたいと思う。そして、彼らが日本に来た時には町の案内や、日本文化の説明をロシア語でできるように今後もロシア語の学習を続けて行こうと思う。


参照文献
国立研究開発法人国立がん研究センター. (2025年3月14日). 喫煙率. 参照先: がん情報サービス: https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/smoking/index.html#:~:text=%E7%94%B7%E6%80%A725.6%EF%BC%85%E3%80%81%E5%A5%B3%E6%80%A76.9,15.7%EF%BC%85%EF%BC%882023%E5%B9%B4%EF%BC%89%E3%80%82
WHO(世界保健機関). (2024年06月08日). 世界のタバコ喫煙率ランキング、国別順位(2024年版). 参照先: MEMORVA: https://memorva.jp/ranking/unfpa/who_whs_tobacco_smoking.php
外務省. (2025年2月21日). カザフスタン共和国(Republic of Kazakhstan)基礎データ. 参照先: 外務省ホームページ: https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/kazakhstan/data.html
国土交通省国土地理院. (2024年12月20日). 全国都道府県市区町村別面積調. 参照先: 国土交通省国土地理院: https://www.gsi.go.jp/KOKUJYOHO/MENCHO-title.htm