2021年35日(金)、公開講演会シリーズ「中央ユーラシアと日本の未来」の第21講演会として、東京藝術大学大学院音楽研究科音楽文化学専攻博士課程の東田範子氏をお迎えし、「口頭伝承の再文脈化-カザフ伝統音楽の現代的教育法-」と題する講演をしていただきました。

東田先生は、東京藝術大学大学院博士課程でカザフの伝統音楽を研究対象として中央アジアの民族音楽学をご専門にされており、日本、カザフスタン、アメリカで学ばれ、カザフスタンでは2つの大学で教鞭を執られているなど、大変豊かな経歴をお持ちです。

カザフ人の民族音楽は、元来楽譜を使用せず、即興性や変奏性が重んじられており、一人でドンブラなどで弾き語りをしたり、独奏したりといった形式が主流でした。この形態は、現代でも若者たちによるドンブラパーティなどのような場で受け継がれています。しかし、ソ連時代になり、音楽教育にドンブラの演奏が組み込まれ、楽譜が作られるなど、西洋的なメソッドでの教育が行われるようになりました。こうした潮流が見られた1970年ごろ、「ソルフェージュ」を取り入れた、ドンブラの即興演奏法、変奏法、また、歴史的知識の修得などといった「エスノソルフェージュ」といった授業も現れました。この「エスノソルフェージュ」は、集団的口頭伝承メソッドの発展につながっており、エスノソルフェージュに寄与した音楽学者がつくった私立小学校では、子どもたちが楽譜を使わずに見聞きし、真似することでドンブラの奏法を習得していきます 

実際のドンブラの授業風景も組み込みつつ進められた講演は、カザフ人の元遊牧民としてのアイデンティティをどのように現代の教育の中で維持するか考えさせられる、たいへん興味深いものでした。