令和3年10月29日(金)、今年度の日本ロシア文学会 第71回全国大会が筑波大学・オンライン大会として開催されることを記念して、プレシンポジウム「消えゆく記憶と繋がり―ソ連崩壊後30年の文学と社会を語る―」を日本ロシア文学会との共催で開催しました。今年がソ連崩壊から30年の節目に当たることから企画されたものです。


本シンポジウムは2部構成で行われ、第一部では、NipCAプロジェクトのコーディネーター梶山祐治UIAによる司会のもと、旧ソ連を構成する7つの国と地域、タタールスタン(ロシア)、ベラルーシ、ウクライナ、ジョージア、ラトヴィア、ウズベキスタン、カザフスタンにおける、ソ連崩壊後の最新文学事情についてお一人ずつ発表していただきました。各報告者と国・地域の担当は以下の通りです。

タタールスタン(ロシア):守屋 愛 氏(慶應義塾大学非常勤講師)
ベラルーシ:越野 剛 氏(慶應義塾大学准教授)
ウクライナ:奈倉 有里 氏(早稲田大学非常勤講師)
ジョージア:五月女 颯 氏(京都大学、日本学術振興会特別研究員PD)
ラトヴィア:黒沢 歩 氏(ラトヴィア文学翻訳家)
ウズベキスタン:河原 弥生 氏(東京大学准教授)
カザフスタン:坂井 弘紀 氏(和光大学教授)

旧ソ連地域と一口に言っても、そこには様々な民族や言語、文化が息づいており、また、旧ソ連の中心的立場にあった現在のロシア連邦に対する姿勢や関わり方も各国・地域で異なっています。特に、文学の中での民族語とロシア語の力関係や、それぞれの民族文学の定義、文学の題材としての自国観とロシア観など、ソ連時代からの価値観で受け継がれているものは何かということと、ソ連崩壊後の30年間で培われてきた新たな価値観にはどのようなものがあるかということについて、多くの発表がありました。
第二部では、早稲田大学教授の貝澤哉氏にモデレーターを務めていただき、全体討論が行われました。はじめに貝澤氏から、文学が過去の記憶のトラウマを歴史化していくという社会的機能はあるのか、すなわち、メディアやポップカルチャー等新しい文化が台頭する中で、文学はまだこのような社会的な力を保持しているのか、また、そのような文化と手を組むことで新しい文学の形ができているのか、そして、言論の自由に関して各国・地域はどのような状況にあるのか、といった質問が投げかけられました。貝澤氏の質問に対して、各登壇者からは、伝統的な口承文芸から文学を超えて映画やテレビにおける文学作品のメディアミックの例に至るまで、具体的な最新文学事情についてのお話が止むことなく続きました。
全体を通して、7つの国と地域という立場から、ソ連時代から繋がっているもの、消えてしまったもの、そして新しく生まれたものの姿が描き出された、類を見ない規模のプレシンポジウムとなりました。本シンポジウムの模様は日本ロシア文学会のYouTubeチャンネルで公開され、令和3年11月30日まで1102回の再生がありました。