2025年8月28日(木)、第58回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催しました。大阪公立大学文学部准教授の大山万容氏を講師にお招きし、「複言語主義で読み解く教育と社会」と題する講演をしていただきました。

大山先生は、言語教育学、複言語教育、言語政策をご専門とされ、複言語教育のトップランナーの研究者としてご活躍されています。講演日より約2カ月前の6月25日には、京都大学の西山教行教授との共編著で『複言語主義における創造性と多元性』が刊行されました。

今回の講演では、複言語主義の概念、ニューカレドニアや日本の大学での複言語教育の実践を中心にお話をされました。

複言語主義とは、個人が複数の言語を状況に応じて使う能力のことであることを、ゼレンシキ―大統領とレックス・フリードマン氏のインタビューを例として用いて分かりやすくご説明いただきました。20世紀の言語学において、理想的な「言語」から現実的な「話者」へと視点や根本的な考え方の転換が起こったそうです。言語習得プロセスにおいて、個人がその人の歴史の中でどのように言語とかかわってきたかに注目する必要があると考えられるようになった、とご説明いただきました。

次に、ニューカレドニアの歴史的背景をご説明いただいた後、ニューカレドニアの大学教育の課題と教育デザインについてお話しいただきました。フランス領であるニューカレドニアには複数の言語が存在します。しかしながら大学では、単一言語つまりフランス語で教育が行われます。このような状況下で、複数言語話者の学生が、フランス語以外の言語スキルを軽視する、またはハンディキャップであると認識するということが起こるそうです。教育現場において、複数言語による知識構築や、土地の言語の発見の奨励といったような複言語教育的なアプローチが必要であると考えられるとお話しくださいました。アプローチの方法として、教師や研究者による分類のほかに、学生本人が複数言語の分類を図に描くことや言語自伝を書くことが挙げられました。それらを通して自分の持っている複数の言語が、自分の中でどのように在るのかを把握したり、複言語話者である自己や他者の理解を深めたりすることができ、エンパワーメントにつながってくるのではないかとご説明されました。

同様の教育ツールを日本でも用いたところ、均質に見える日本においても、個人の言語背景は多様であることを認識し、より多様な世界への関心へつながったそうです。また、日本の大学での複言語教育の一つとして、複言語映画を見ることも挙げられました。講演では『オルガの翼』という映画よりシーンを抜粋して、バイリンガルの言語交替についてご説明くださいました。

講演の最後には、大山先生の著書の紹介や、なぜニューカレドニアを研究フィールドに選ばれたかという質疑応答が行われました。また、ニューカレドニアの学生が自分たちのアイデンティティテクストを書いて制作した動画を紹介いただき、多くの参加者とともに講演会は終了しました。