カザフスタン医療視察研修報告書
医学群医学類3年 谷優貴子
〈カザフスタンの医科大学・医療機関で学んだこと〉
カザフスタンは、一般的に日本と比べて医療水準が低い国だと言われています。ですが、視察した医科大学や医療機関の様子からは、あまりそのような印象は受けず、むしろ日本より進んでいる面もあると感じました。私はそこから、新鮮な気付きを得ることが出来たと思います。
右の写真は、Asfendiyarovカザフ国立医科大にあった、合成素材で出来た解剖学習用の模型です。複数の医科大学を視察してとても印象的だったのは、このような模型やシミュレーターが多くあり、主に低学年の学部生が利用している点です。私達も去年解剖実習を行いましたが、教科書のみでの予習で臨まなくては
ならず、とても苦戦しました。実際の解剖実習は一度きりしかできないので、より人体構造への理解を深めるために、日本でもこれらのような模型を利用して予習や復習が出来るとより良いと感じました。他にも、様々な科のシミュレーターや臨床推論を順に練習できる機器(左の写真)などが備えられており、全体的に教育資材が充実している印象を受けました。英語で医学部の授業を実施している大学も複数あり、意識の高さを目の当たりにしました。
また、アスタナ医科大の関連病院であるRepublican Children’s Rehabilitation Centerを訪れた際には、病院とは思えないほど明るいその雰囲気に、驚かされました。モンテッソーリ教育に基づいて子供たちが遊びながら学べるように工夫された幼稚園のような部屋や、リハビリテーションの一貫で作った数多くの工作があり、とても楽しげな雰囲気を感じることが出来ました。そしてこの病院では、日本よりも遥かに多くの種類のリハビリテーションが行われていました。入浴療法や、院内にある体育館やプールでの運動療法、伝統的な楽器である「ドンブラ」の演奏を通じた音楽療法などです。院内には可愛らしい絵や魚のいる水槽が多くあり、温室植物園と合わせて、心理療法の役割を担っているそうです。私は、このように多くの種類のリハビリテーションが実施されて
おり、子供たちが子供らしく過ごせるような環境が十分に整っている病院は、日本でもあまりないのではないかと思いました。
日本の方が高い医療水準を持っているとはいえ、実際に行ってみると、カザフスタンの医療から私達が学ぶべきことも多くありました。本来日本は高性能な模型やシミュレーターを準備できる国であり、実際若手の医師たちはそれらを用いて学習しているのだろうと思います。ですが現在、学部生の私たちには、そのような機材を用いて勉強する機会がほとんどありません。また英語での医学教育も不十分な状態です。小児センターの施設の充実に関しても、日本で十分に実現可能なはずですが、従来の価値観に縛られている病院が多く、先進的な一部のこども病院を除いてはまだあまり進んでいないのが現状だと思います。ここから私は、ただ高い医療水準を追い求めるだけでなく、「学生にとって真に良い医学教育とは何か」また「患者にとって真に良い病院とは何か」といった視点で考えることも、医療の質を高める上で重要だと気付くことが出来ました。画期的な医療の開発はもちろん必要不可欠ですが、身近に出来るより良い医療を実現していくことも、当事者にとっては大切だという新たな方向性を認識することが出来ました。
〈研修の前後で成長したこと〉
私がこの研修を通じて一番成長したと思うのは、英語でコミュニケーションを取ることに対する意識です。元々英語に自信が無く周囲と比べても平均的な英語力だった私は、特にスピーキングに苦手意識を持っていました。上手く話せないからという理由で、いつも英語での会話を避けてきました。研修の最初に訪れた大学で簡単な自己紹介を求められた時、私はそれだけでとても焦ってしまい、正直心臓がバクバクだったことを、今でも鮮明に覚えています。
一方で、その時一緒に研修に行った他の学生たちは、自己紹介を難無くこなし、その後も現地の医学生と積極的に喋って交流を深め、とても仲良くなっていました。私はその姿を見て、とても悔しい気持ちになると同時に、自分も今変わらなくてはいけないと、強く感じました。英語力の高い学生はもちろんよくコミュニケーションを取れていましたが、私達の中で現地学生と一番仲良くなっていたのは、拙い英語でもただひたすらフレンドリーに話しかけ続けている子でした。大切なのは、間違った英語を話すことを怖がらず、必死に伝えようとトライし続けることだと、気付くことが出来ました。彼に勇気をもらい、本当は人と喋るのが大好きな私は、「せっかく研修に来たからには自分からどんどん話しかけて交流を楽しまないと勿体ない」というマインドで、この研修期間を過ごす決意を固めることが出来ました。
実際に、複数の大学の学生たちと交流を重ねる毎に、私は少しずつ英語でも明るくたくさん話せるようになりました。研修が進むにつれて、英語を話す時の自分の性格が、普段日本語を話す時の自分の性格に近づいてくる感覚を得ることが出来ました。そして研修終盤の7日目、気付けば私は会食後のナイトウォーキングで2時間以上にわたってほぼ1対1で現地学生と話し続けていました。自分が英語でそれほど長く会話出来たことに驚きと達成感を覚えると共に、心からコミュニケーションを楽しんで交流の時間を過ごせたことが何よりも嬉しく、私のカザフスタンでの印象的な思い出の一つになっています。
この研修を通して、海外の人と話す時に最も大切な事は、何よりコミュニケーションを取りたいという気持ちや姿勢なのだと、学ぶことが出来ました。この気付きはとても大切ですが、私の改善点はまだまだあると感じました。研修中に行った私のプレゼンに対する質疑では、質問を聞き取って何とか答えられたケースもあったものの、言いたい内容を伝えきれず、もどかしい思いを経験したことも数多くありました。また、訪問した5つの異なる大学・学部での双方の学生のプレゼンを通じて、他者のプレゼンをただ聞いて終わりにするのではいけないことも痛感しました。発表後の積極的な質問によって活発な議論を交わすことが出来て初めて多くの学びが得られるのだと、私は身をもって知ることが出来ました。このようなアカデミックな領域における質疑と議論を英語で十分出来るようになることは、今後も継続して取り組むべき私の課題です。今回の研修で気付けたコミュニケーションの本質を忘れることなく、自分の実力を高める努力をし、私はまた海外の舞台に飛び立ちたいと思います。