2022年8月30日(火)、第36回「中央ユーラシアと日本の未来」公開講演会を開催し、日本最古級の映画館として登録有形文化財や近代化産業遺産にも登録されている高田世界館の支配人を務められている上野迪音氏を講師として、「日本最古級の映画館再建とまちづくり」と題する講演をしていただきました。
上野氏が支配人を務める高田世界館は、新潟県上越市高田地区で、1911年に芝居小屋高田座として開業しました。5年後1916年に世界館と名称を変えて常設の映画館となり現在に至る、非常に歴史のある映画館です。上野氏は、高田世界館がある上越市のご出身で、横浜国立大学大学院で映画評論を学ばれました。自身の地元の映画館である高田世界館で自主映画上映会を行ったことをきっかけとして、取り壊しの危機にあった高田世界館の支配人をお務めすることとなりました。
上野氏は高田世界館の支配人として、開業当時の趣を残す高田世界館の魅力を体外的に発信することで数多くの人々を呼び込むことに成功されるともとに、少子化が進む上越市高田地区の活気を取り戻すため映画館を通した社会貢献・まちづくりを行われています。今回の講演では、文化発信と地域振興の観点から、これら上野氏の活動についてお話ししていただきました。高田世界館では、様々な活動を行っており、映画の上映や応援上映などの他にも、音楽イベント、舞台挨拶、そして婚活イベントや結婚式などのイベント会場として、そして、文化財である高田世界館を見ようとする観光客の受け入れなど、映画という枠にとらわれない活動をされています。このようなイベントを開催する理由には、イベント発信の場として高田世界館が活躍することで地域の活性化を目指すと同時に、映画上映だけでは映画館の運営がままならないことから、そのような中で映画館をどう存続させるかという経営戦略としての一面もあります。
老朽化の問題から取り壊しの危機にあった高田世界館を、市民が保持しようという動きが2000年代から起き、2009年にはNPOが開設されました。NPOの第一の目的として建物の保全があり、高田世界館は市民の協力・寄付によって老朽化した建物の修繕が行われました。その後、2014年に上野氏が高田世界館で働くようになって以来、映画上映の増加や、地域と連携したイベントの開催が積極的に行われるようになりました。
高田世界館では地域密着型の活動として、公開中の映画の内容に関連付けたイベントの開催、託児所としての場所利用、新年餅つきの開催、縁日の開催場として高田世界館の場所の提供などが行われています。このようなイベントによって、普段は映画館を訪れない人にとっても親しみやすい場所として、高田世界館が受け入れられるようになりました。映画上映の増加、地域に密着した活動、映画の枠にとらわれないイベントの開催を通して、これまでほとんど来場者のいなかった高田世界館では、2015年には年間15,000人の来場者となり、文化発信の場として受け入れられるようになるとともに、地域振興の中心地となりました。
現在では、高田世界館にやって来た多くの観光客が、地域のその他の店舗を利用するようになりました。そのため、高田世界館の周りにはまちづくりを担う新たな店舗も増え、高田世界館を中心として、より地域の活性化が進んでいます。このように、高田世界館の映画館の枠にとらわれない活動が高田地域内、そして高田地域の外の人々にも伝わり「まちづくり」の中心となっていった過程をお話しいただきました。高田世界館は映画上映のみならず、まちづくりに力を入れた様々な活動を行う映画館となっています。しかし、そのような特徴があるからこそ、人員不足・企画業務の属人化・資金面の問題などが現在生じていることを教えていただきました。
講演終了後も映画館の運営に関する多岐にわたる質問が寄せられました。映画館としてどのような映画を提供する必要があるか、何を見据え運営していく必要があるかなど、上野氏が支配人という立場だからこそお聞きできる質問にお答えいただき、経営者としての目線をお聞かせいただきました。映画館を中心とする地域振興という他に例を見ないまちづくりの形をお聞きすることができる貴重な機会となりました。